第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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印を結ぶ時は慎重に……間違えたら発動しない、最初からやり直しになる。 だけど言霊はそこまで気を遣わなくても大丈夫。 自分で考えて決めたモノだから、多少言い間違えても発動するんだ。 ただ……”こうしたい”、”こうなりたい”という気持ちを強くこめなくちゃダメだけど。 精神を集中させて……コントローラーを構築しなくちゃ。 まずはイメージ。 頭の中に真っ白なシーツを敷いた。 その上に必要なパーツを並べていって、全部そろってるのが確認出来たら、順番で組み立てるんだ。 細かい作業だけど……ボクはこれが嫌いじゃないの。 だって……ワクワクするよ。 ジャンク品から回収したパーツの数々、本来なら捨てられちゃうはずなのに、生き返ってくれるんだもん。 印を結び終え、言霊を唱え、両手を蓮の花のように丸めた。 花の中は暖かくって、光の粒子が宝石みたいにキラキラしてる。 近くで見ている弥生さんの「……キレイ」って声が聞こえて、少しだけ誇らしい気持ちになった。 ああ……なんかいいなぁ、こういうの。 優しい先輩達とワイワイガヤガヤして、”(らん)”ってみんなが名前を呼んでくれる……ネットの世界に入り込んでしまった時は、心細くて泣きそうだったけど……みんなが来てくれて……嬉しかったなぁ…… みんなと一緒なら、いっそずっと、ネットの世界(ココ)にいてもいいなぁ……なんて……そんなコトを考えていたら………………あれ? これ……って……ボクの手の中に見慣れた小さなモノがあった……さっきまでなにもなかったのに……これって……これって…… 最初に出現したのはチップだった。 ボクの霊力発動時の固定カラー、オレンジ色に光ったチップ。 霊力(ちから)で……構築されたの……? 小さなチップ……これが手の中にあるのが信じられなかった。 だけど確かにあるの……それで……そこからは早かったんだ。 太陽みたいなオレンジ色の光が、瞬間的に何度も光を増して、眩しくて、目を閉じて、また開けた時、開けるたび、新しいパーツが増えていく。 基板……台座……振動モーターにリード線……スティック……右ボタンに左ボタン……クロスボタンに記号ボタン……くしゃみで飛んでしまいそうな小さなネジが数本……次々に構築されていく…… リアルの部屋に一人……分解と組み立てを繰り返した時に並べたパーツが、ネットの世界じゃ手に入るはずのないパーツが、霊力(ちから)でもって構築された、必要なパーツが、今ぜんぶ揃った……! あとは簡単だ、目を瞑ってたって、指先の感触だけでそれがなんのパーツかわかるもの。 組み立てるだけでいい、慣れ切った作業はそう時間はかからない。 ボクは夢中になって組み立てた。 ココに時計はないけど、いつも通りに作業が出来たと思う。 というコトは……たぶん10分かかっていないはず。 「いつも使ってるのより派手だ……」 キラッキラに光を放つコントローラーは、ボクの両手にしっくりと馴染んでいた。 その感触は、スッと気持ちを落ち着かせ、ガツンと気持ちを高ぶらせる。 ボクは霊力(ちから)で構築したコントローラーにキスをしたの。 も、もちろん、普段ならそんなコトしない。 でも、あの時は嬉しくて、これでジャッキーさんと対等に戦えるんだと思ったら、コントローラーに「よろしくね、一緒に頑張ろうね」って気持ちが沸いてきちゃって……な、なんか恥ずかしいな。 動作確認もかねて、ボクはスタートボタンを押した。 そしたら……金色に縁どられた大きな画面が目の前に現れたんだ。 うん、ちゃんと動く、じゃあスティックはどうだろう? 右手親指で軽くはじくと、画面の中には人の形をした黒いシルエットが映し出された。 シルエットの足元には【unknown(アンノウン)】の表示。 スティックをさらに動かすと……unknown(アンノウン)のシルエットが次々に現れては消えていく。 何度かそれを繰り返していると、髪がオレンジ色で細身の男性……そう、ボクの全身が映っていた。 さっきまでの黒いunknown(アンノウン)キャラじゃない、ボクのキャラだけ黒くない、足元には【深渡瀬(らん)】の表示。 さらにその下には【プレイヤーを選択してください】とあった。 「選択してくださいって……ボク以外はみんなブラックアウトで選択できない。今選べるのはボクしかいないよ。……まぁでも……他に選べたとしてもボクはボクを選ぶけどね、」 ボクは、画面の中の”深渡瀬(らん)”を選んで決定ボタンを押した。 そして、 「ジャッキーさん、お待たせしました」 振り返りそう言うと、 「ああ、いいさ。じゃ、始めようか」 ジャッキーさんは長い棒を僕に向けて、構えを取ったんだ。
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