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印を結ぶ時は慎重に……間違えたら発動しない、最初からやり直しになる。
だけど言霊はそこまで気を遣わなくても大丈夫。
自分で考えて決めたモノだから、多少言い間違えても発動するんだ。
ただ……”こうしたい”、”こうなりたい”という気持ちを強くこめなくちゃダメだけど。
精神を集中させて……コントローラーを構築しなくちゃ。
まずはイメージ。
頭の中に真っ白なシーツを敷いた。
その上に必要なパーツを並べていって、全部そろってるのが確認出来たら、順番で組み立てるんだ。
細かい作業だけど……ボクはこれが嫌いじゃないの。
だって……ワクワクするよ。
ジャンク品から回収したパーツの数々、本来なら捨てられちゃうはずなのに、生き返ってくれるんだもん。
印を結び終え、言霊を唱え、両手を蓮の花のように丸めた。
花の中は暖かくって、光の粒子が宝石みたいにキラキラしてる。
近くで見ている弥生さんの「……キレイ」って声が聞こえて、少しだけ誇らしい気持ちになった。
ああ……なんかいいなぁ、こういうの。
優しい先輩達とワイワイガヤガヤして、”嵐”ってみんなが名前を呼んでくれる……ネットの世界に入り込んでしまった時は、心細くて泣きそうだったけど……みんなが来てくれて……嬉しかったなぁ……
みんなと一緒なら、いっそずっと、ネットの世界にいてもいいなぁ……なんて……そんなコトを考えていたら………………あれ?
これ……って……ボクの手の中に見慣れた小さなモノがあった……さっきまでなにもなかったのに……これって……これって……
最初に出現したのはチップだった。
ボクの霊力発動時の固定カラー、オレンジ色に光ったチップ。
霊力で……構築されたの……?
小さなチップ……これが手の中にあるのが信じられなかった。
だけど確かにあるの……それで……そこからは早かったんだ。
太陽みたいなオレンジ色の光が、瞬間的に何度も光を増して、眩しくて、目を閉じて、また開けた時、開けるたび、新しいパーツが増えていく。
基板……台座……振動モーターにリード線……スティック……右ボタンに左ボタン……クロスボタンに記号ボタン……くしゃみで飛んでしまいそうな小さなネジが数本……次々に構築されていく……
リアルの部屋に一人……分解と組み立てを繰り返した時に並べたパーツが、ネットの世界じゃ手に入るはずのないパーツが、霊力でもって構築された、必要なパーツが、今ぜんぶ揃った……!
あとは簡単だ、目を瞑ってたって、指先の感触だけでそれがなんのパーツかわかるもの。
組み立てるだけでいい、慣れ切った作業はそう時間はかからない。
ボクは夢中になって組み立てた。
ココに時計はないけど、いつも通りに作業が出来たと思う。
というコトは……たぶん10分かかっていないはず。
「いつも使ってるのより派手だ……」
キラッキラに光を放つコントローラーは、ボクの両手にしっくりと馴染んでいた。
その感触は、スッと気持ちを落ち着かせ、ガツンと気持ちを高ぶらせる。
ボクは霊力で構築したコントローラーにキスをしたの。
も、もちろん、普段ならそんなコトしない。
でも、あの時は嬉しくて、これでジャッキーさんと対等に戦えるんだと思ったら、コントローラーに「よろしくね、一緒に頑張ろうね」って気持ちが沸いてきちゃって……な、なんか恥ずかしいな。
動作確認もかねて、ボクはスタートボタンを押した。
そしたら……金色に縁どられた大きな画面が目の前に現れたんだ。
うん、ちゃんと動く、じゃあスティックはどうだろう?
右手親指で軽くはじくと、画面の中には人の形をした黒いシルエットが映し出された。
シルエットの足元には【unknown】の表示。
スティックをさらに動かすと……unknownのシルエットが次々に現れては消えていく。
何度かそれを繰り返していると、髪がオレンジ色で細身の男性……そう、ボクの全身が映っていた。
さっきまでの黒いunknownキャラじゃない、ボクのキャラだけ黒くない、足元には【深渡瀬嵐】の表示。
さらにその下には【プレイヤーを選択してください】とあった。
「選択してくださいって……ボク以外はみんなブラックアウトで選択できない。今選べるのはボクしかいないよ。……まぁでも……他に選べたとしてもボクはボクを選ぶけどね、」
ボクは、画面の中の”深渡瀬嵐”を選んで決定ボタンを押した。
そして、
「ジャッキーさん、お待たせしました」
振り返りそう言うと、
「ああ、いいさ。じゃ、始めようか」
ジャッキーさんは長い棒を僕に向けて、構えを取ったんだ。
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