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「よく避けたじゃないッ! じゃあこれはどうかな!?」
長い棒を身体の前で、横で、頭上で、背中で、プロペラのように回転させるジャッキーさんは、イチニイサンの短い助走で地を蹴った。
グンッと巨体が空を飛ぶ。
スーパームーンを背中にしょって、逆光がつくる黒い影。
その影はプロペラごとボクに向かって降下する。
脚で蹴られてもプロペラにはじかれても、どっちにしたって【you……die……(ゲームオーバー)】だ!
ピ、ピンチ!
コントローラー、△ボタンとL1ボタンを再び連打!
コロリーン!
受け身を取って回避したのとタッチの差。
空からの襲撃者は今ボクがいた場所に着地した、が、早いっ!
□ボタン二連打でボクが霊体を起こした時。
ジャッキーさんはすでにこちらに向かって猛ダッシュしていた。
再びピンチ! 走れボク! 逃げなきゃやられる!
ダッシュボタンはきっとこれだ!
自信を持って×ボタンを高速連打してみると、ち、違ったーーー!
とっとと走って逃げたいのに勘が外れたーーー!
あ、けど、ま、いっか!
×ボタンの連打でボクは、ザンッとその場に腰を落とし、それをバネに垂直に飛んだんだ。
そうか、×ボタンはジャンプなのね、と思っていたら……ジャンプのレベルじゃなかった!
予想以上に高く飛んでる!
高度が上がる、まだ上がる、ぜんぜん上がる!
スーパームーンが近くに見える!
木のてっぺんが眼下に広がる!
どこまで飛ぶのーーー!
あまりの高さに慌てたけど、ふと見れば……わぁ……キレイ……!
天からの絶景は一瞬バトルを忘れるほどだったの……
……澄んだ空は漆黒で虹を砕いた星々が、
……青みの月は清らかな湖を思わせて、
……遠くの山は薄くかすれて夜に馴染む、
これだけの背景を完成させるのに、どれだけの努力と労力と残業が必要だったか……それを思うと泣けてくる……
【マジカル陰陽師】背景デザイナーさんの頑張りとレベルの高さに……色々思って溜息が漏れた。
ああ……だけど……なんて美しいんだろう……!
ボクが絶景にうっとりしていると、
「やるねぇ!」
と弾んだ声が微かに聞こえてきたの。
下を見れば立ち止まったジャッキーさんがボクを見上げて笑ってる。
これはチャンスだ。
予定と少し違うけど取りたかった距離は十分取れてる。
スーパージャンプで絶景を見たあと、ボクの霊体は降下を始めた。
宙にいるボクの位置から、地上のジャッキーさんはもっと右にいる。
試しに……光るコントローラー、これのR1ボタンを連打してみると……やっぱりか。
ボクの脚はバタバタし始め、落ちながら右方向へズレていく。
これを繰り返してバトルの相手、カンフーキャラの真上に寄せる。
R1R1R1R1!
ひたすら、連打で、もうすぐ、目標の、真上に、行けそう!
脚から落ちてくボクの下。
「ふぅん」と不敵に笑うジャッキーさんが、長い棒を垂直に構えた。
迎え撃つ気だ。
あの木の棒……あれで叩かれたら痛そうだ……霊体でもやっぱり痛いのかな……いや、怯むな! ……ウソ……そりゃ怯むよコワイもん……でもやるしかないのっ!
このままジャッキーさんにキックをお見舞いするんだ!
目標まであと3メートル、2メートル、1メートル……!
ガッ!!
ゴキンッ!!
二種類の鈍い音がした。
ボクは地面に転がって痛む太ももをさすっていた。
木の棒はボクのオシリと太ももにわたって打ち込まれたけど、咄嗟に回避ボタンを押したから傷は浅い。
それよりジャッキーさんは?
下手すりゃまた来る、すぐに来る。
どこ? どこにいる?
□ボタン二連打で霊体を起こし、360度目線を走らせると……いた!
尻もちの体勢で首と肩をさすってる。
ボクのキックがヒットしたんだ!
よ、よし! ……でいいんだよね?
大丈夫だよね?
本物のジャッキーさんは今リアルだもん、痛い思いさせてないよね?
尻もちの先輩をジッと見てると……ふと頭の上に【-108】の赤色の数字が浮かびすぐに消えた。
え……今の……もしかして……ダメージじゃない?
ボクがジャッキーさんに与えたダメージの数字だ……!
両手の使えないボクが攻撃に成功した……ジャッキーさんのライフを108削ったんだ……!
ボクは改めて自分の足元見た。
ミカンよりも濃い色でリンゴよりも薄い色。
カワイイモノが大好きなボクの心を掴むデザインスニーカー。
デフォルトの装飾品だ。
確かコレって鉄板入りだったよね……
というコトは……キックの威力がマシマシになる……うん、いいぞ!
攻撃は足技中心、これでいこう。
手が使えないボクの為のデフォルト装備。
少し光が見えてきたかも……!
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