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「まったく、ちょこまかとッ! 落とせそうで……落とせない! 嵐くんは思わせぶりな女みたいだなっ!」
ジャッキーさんの長い棒……そう、六尺棒は狂暴な蛇と化していた。
時に真っすぐ、時にしなる。
突きの猛撃は、蛇が数百匹に増えたような錯覚を起こし、執拗にボクを狙う。
「女って……! ボ、ボクは男です! ヘンなコト言わないでくださいっ!」
ジャッキーさんの軽口に目一杯の抗議をしながら、ボクは足だけで攻撃をいなしていた。
片足を地に着けてバランスを取りながら、反対側の片足で狂暴な蛇を片っ端から受け流す。
だいぶ慣れた、ジャッキーさんの動きも、ボクの操作も。
両手が使えなくてもやれるんだって見せてやる。
「ホントに器用に防御するよね。オジサン、自信なくしちゃうよ。でも、さすがにこれは防御出来ないでしょ?」
ニヤリと笑ったジャッキーさんは、六尺棒を片手に持ち替えフェンシングのような構えを取った。
そして……
「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァッ!」
あ、あれれ?
どこかで聞いたような……スタ……プラチ……
そう思ったのはほんの一瞬。
思い出す時間すらなかったの。
超高速な手の動き、肩から先が溶けて消えてる。
風を切る音が耳に痛くて、蛇は数万匹に増えていた。
ガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!
防御出来たのは最初の数秒、
それ以降はとてもじゃないけど防げなかった、
ボクの肩を、胸を、お腹を、そして足を、容赦なくぶっ叩く、潰しにきてる……!
足技だけで互角に戦えていた、そう思ってたのはボクだけだったの?
意識がたびたび途切れる中、手加減してもらってたのかなって、そう思ったら悔しくて……なのに手はもちろん足も出ないんだ。
だって光の速さの六尺棒は溶け切って、目が追い付かないんだもの。
避けられず、受け止められず、されるがままに打たれるだけ。
朦朧とする中、
「ジャッキー、やりすぎだ!」
弥生さんの慌てた声が聞こえて、心配されてるって思ったら自分が情けなくなったの。
リアルの喧嘩ならともかく、ゲームのバトルなのに、ゲームだけは誰にも負けないって自負があったのに。
視界の端に、弥生さんが回復霊術の準備をしてるのが見えた。
きっとボクを助けるつもりなんだ。
ありがたいんだけど、でも、なんか……それをされたらズルをするみたいで、そうなったらもうジャッキーさんとは戦えないって、だからやめてって言いたくて、なのに、そんなコト言う余裕もなくて……そしたら……受け身をとりながら社長が転がってきて……
「ヤメロ、弥生。ほっとけ、このままやらせてやれ」
そう言ってとめてくれたの。
「だってさ! このままじゃ嵐ちゃんヤバイよ! ジャッキーもジャッキーだ、嵐ちゃん相手にムキになるなっつの! アイツ本来の目的を忘れてる、アタシらは嵐ちゃんを助ける為にココに来たんだろ? ガチバトルする為じゃないよ、」
「ははっ! 弥生、おまえずいぶんと丸くなったなぁ。昔の弥生はまんまヤンキー、喧嘩上等だったのによ。もしかして、好きなオトコでも出来たんですかぁ? 後輩庇ってケンカを止めるなんてカワイイとこ……って待て待て待て、殴るな! 俺一人で起き上がれねぇって言ってんだろが! やっぱカワイクねぇわ!」
「ウルセェ! 誠にカワイイなんて思われたら逆にキモイわっ!」
「とにかくよ、いいじゃねぇか。嵐が追い詰められたら、それこそ潜在能力が開花するかもしれねぇし、このまま様子見ようぜ!」
「でも……!」
「大丈夫だよ、死にゃあしねぇ。それに嵐はゲームの中じゃ強えんだろ? これからだよ。そうだろ? 嵐!」
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