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数万匹の蛇が一瞬で消えた。
さっきまでの猛撃がウソのようにシンとして、ボクは肩で息を吐いたんだ。
あのままいたらボクのライフが0になるのに、そう時間はかからなかったと思う。
一人じゃ手も足も出ない、最悪のピンチを救ってくれたのは……
言霊と〇ボタンとL1L2ボタンの同時押しで召喚された小さな台風。
蛇を生み出す六尺棒は、空の高い所に飛ばされた。
武器を失ったジャッキーさんは、ダラリと立って呆気にとられていた。
「嵐くん……ソレはキミが呼んだのかい?」
そう言って指をさすのは……ボクの足元だ。
突風を起こした小さな台風は、甘えるようにまとわりついている。
落ちる木の葉を舞い上げながら、ほのかにオレンジ色に光りながら。
それにしても……ジャッキーさん、この小さな台風を”ソレ”って呼んじゃうのか……
いや、そうだよね……うん、仕方ないよね。
ジャッキーさんから見れば、この子は、ただの”風”だもの……
決して悪気があって言ってるんじゃない……わかってる。
でも……この子がそんなふうに呼ばれるのが……なんだかすごくイヤだったんだ。
だってボクを助けてくれた子だもの……それなのにモノみたいな呼び方は……
「あ、あの、この子は……この子は……えっと……フ、フーちゃんですっ! ボクが言霊で呼びました!」
”ソレ”と呼ばれるのがイヤだから、咄嗟につけたこの子の名前……”風”の音読みで”フー”ちゃんにしたんだけど……ひねりもなにもない……そのまんまだ。
な、なんかゴメン、ヘンな名前だよね。
わんこに”ポチ”、にゃんこに”タマ”くらいの単純さだけど、「この子は”フーちゃん”です」と言ってすぐ、フーちゃんはヒュンッ短い音をさせて、ボクの肩に移動したの。
さっきもそうだったけど、至近距離で風があたって、ボクのほっぺが波打ってるのがわかるんだ。
フ、フーちゃん、すっごく近い。
もしかして……甘えてくれてるのかな?
それともヘンな名前つけたから文句を言ってるのかな?
ホントのところはわからないけど、たぶんきっと、フーちゃんはボクの味方だ。
だって風はこんなに優しい。
「”フーちゃん”って、嵐くんが今つけたの? 名前を付けたのは、知っていたから?」
……どういう意味だろ?
「知っていたから……? 何を? ……よくわからないけど、名前は今付けました。そ、そうです。ボクを助けてくれた子だし、名前がないと呼びにくいかなぁと思って……」
「ふぅん……そう。嵐くんはホントに知ってて名前をつけた訳じゃないみたいだね、」
「知ってて……? どういう意味ですか?」
「まったく良い勘してるよキミは。あのね、【マジカル陰陽師】では言霊で精霊を召喚するコトが出来るんだ。嵐くんが呼んだその風は間違いなく精霊だ。プレイヤーの属性によって呼べる精霊は様々だけど、呼べば一度だけ助けてくれる。通常なら助けた後、精霊は帰ってしまうけど、帰さずに傍に留めておく方法が一つだけあるの。それが精霊への名付けなんだ」
「名前を付けてあげるの……?」
「そう。ただし、なんでもかんでも名前を付ければいいという訳じゃない。つけた名前が気に入らなければ精霊は帰ってしまうからね。この名付けが難しいんだ。大抵は気に入ってもらえない。たくさんのプレイヤー達が、精霊を従える為にイカした名前を考えては付けてきたが……まずうまくいかない。どんな名前なら留まってくれるのか謎だらけだったんだ。まさか……こんな単純な名前を気に入るなんてねぇ。フーちゃんは、嵐くんとツーマンセルを組むつもりらしい。まいったな、今度はオジサンがピンチだよ」
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