第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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数万匹の蛇が一瞬で消えた。 さっきまでの猛撃がウソのようにシンとして、ボクは肩で息を吐いたんだ。 あのままいたらボクのライフが(ゼロ)になるのに、そう時間はかからなかったと思う。 一人じゃ手も足も出ない、最悪のピンチを救ってくれたのは…… 言霊と()ボタンとL1L2ボタンの同時押しで召喚された小さな台風。 蛇を生み出す六尺棒は、空の高い所に飛ばされた。 武器を失ったジャッキーさんは、ダラリと立って呆気にとられていた。 「(らん)くん……ソレ(・・)はキミが呼んだのかい?」 そう言って指をさすのは……ボクの足元だ。 突風を起こした小さな台風は、甘えるようにまとわりついている。 落ちる木の葉を舞い上げながら、ほのかにオレンジ色に光りながら。 それにしても……ジャッキーさん、この小さな台風を”ソレ(・・)”って呼んじゃうのか…… いや、そうだよね……うん、仕方ないよね。 ジャッキーさんから見れば、この子(・・・)は、ただの”風”だもの…… 決して悪気があって言ってるんじゃない……わかってる。 でも……この子がそんなふうに呼ばれるのが……なんだかすごくイヤだったんだ。 だってボクを助けてくれた子だもの……それなのにモノみたいな呼び方は…… 「あ、あの、この子は……この子は……えっと……フ、フーちゃんですっ! ボクが言霊で呼びました!」 ”ソレ(・・)”と呼ばれるのがイヤだから、咄嗟につけたこの子の名前……”風”の音読みで”フー”ちゃんにしたんだけど……ひねりもなにもない……そのまんまだ。 な、なんかゴメン、ヘンな名前だよね。 わんこに”ポチ”、にゃんこに”タマ”くらいの単純さだけど、「この子は”フーちゃん”です」と言ってすぐ、フーちゃんはヒュンッ短い音をさせて、ボクの肩に移動したの。 さっきもそうだったけど、至近距離で風があたって、ボクのほっぺが波打ってるのがわかるんだ。 フ、フーちゃん、すっごく近い。 もしかして……甘えてくれてるのかな? それともヘンな名前つけたから文句を言ってるのかな? ホントのところはわからないけど、たぶんきっと、フーちゃんはボクの味方だ。 だって風はこんなに優しい。 「”フーちゃん”って、(らん)くんが今つけたの? 名前を付けたのは、知っていたから(・・・・・・・)?」 ……どういう意味だろ? 「知っていたから……? 何を? ……よくわからないけど、名前は今付けました。そ、そうです。ボクを助けてくれた子だし、名前がないと呼びにくいかなぁと思って……」 「ふぅん……そう。(らん)くんはホントに知ってて名前をつけた(・・・・・・・・・・)訳じゃないみたいだね、」 「知ってて……? どういう意味ですか?」 「まったく良い勘してるよキミは。あのね、【マジカル陰陽師】では言霊で精霊を召喚するコトが出来るんだ。(らん)くんが呼んだその風は間違いなく精霊だ。プレイヤーの属性によって呼べる精霊は様々だけど、呼べば一度だけ助けてくれる。通常なら助けた後、精霊は帰ってしまうけど、帰さずに傍に留めておく方法が一つだけあるの。それが精霊への名付けなんだ」 「名前を付けてあげるの……?」 「そう。ただし、なんでもかんでも名前を付ければいいという訳じゃない。つけた名前が気に入らなければ精霊は帰ってしまうからね。この名付けが難しいんだ。大抵は気に入ってもらえない。たくさんのプレイヤー達が、精霊を従える為にイカした名前を考えては付けてきたが……まずうまくいかない。どんな名前なら留まってくれるのか謎だらけだったんだ。まさか……こんな単純な名前を気に入るなんてねぇ。フーちゃんは、(らん)くんとツーマンセルを組むつもりらしい。まいったな、今度はオジサンがピンチだよ」
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