第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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そ、そうなの……? フーちゃん、名前気に入ってくれたの? ひねりもない単純な名前なのに……あ、で、でも……ボクの名前も”(あらし)”の音読みで”(らん)”だから……おそろいみたいだ。 それから……その、フーちゃんは、ボ、ボクなんかと、ツーマンセルを組んでくれるの……? 一緒に戦ってくれるの? 名前を付けただけなのに? う、嬉しいけど、ありがたいけど、でも、 「……ホントにいいの?」 ボクがそう聞くと、顔のすぐそば、そよ風を吹き付けるけど、フーちゃんは”いい”とも”ダメ”とも答えない。 それでも、風の子はどこにも行こうとはしなかった。 …… ………… ……………… 「(らん)くん! 自分、思うんだッ! フーちゃんとツーマンセルというのは……うわっ! あぶっ! ああもうっ! ズルくなーい!?」 た、確かに。 ボクも少しだけズルイかなって……思う。 ツーマンセルの頼れる相方フーちゃんは、バトルを全力でサポートしてくれるんだけど、至れり尽くせりすぎるんだ。 両手が使えないボクは防御も攻撃も足技オンリー。 攻撃時、僕がキックのモーションに入ると、フーちゃんはすぐさま足に絡みついて突風を起こしてくれる。 すると当然威力は倍々。 何度ジャッキーさんを吹き飛ばしたコトか。 防御もそう。 フーちゃんはジャッキーさんの攻撃を片っ端からはじき返すものだから、ボクのライフはぜんぜん減らない。 だから出るの、さっきの文句が……「ズルくなーい!?」って。 「ご、ごめんなさい! だけど、ボクが操作出来るのはボクだけ(・・・・)なんです! フーちゃんは、フーちゃんの意思で動いてるから……ボクがどうこう出来なくて……フ、フーちゃん! もう少し手加減(・・・)してあげ……って……あ、いえ、違うんです! 今のは言葉のアヤといいますか、その、」 ピキッ! あ……まずい……今、ジャッキーさんの血管がキレる音が聞こえた気がする。 うっかり言っちゃったけど「手加減」というワードはゲーマーにとって禁句の一つ……しまった……案の定ジャッキーさんはお怒り&イライラモードに突入し…… 「(らん)くん、言うじゃない。別に自分、そこまでピンチじゃないからね? 手加減なんてしなくていいからね? というか、フーちゃんと組んでからの(らん)くん、ちょっと調子に乗ってるように見える、……って、うわぁっ!」 と言いかけたものの…… 口を尖らせ付ける文句は突風に邪魔されて、最後まで言い切るコトが出来なかった。 …… ………… ……………… それから長い時間、ボク達はバトルを繰り広げていたの。 フーちゃんとボクのツーマンセル。 文句を言いつつ楽しそうなジャッキーさん。 大きな声で応援してくれる社長と弥生さん。 楽しいな……すごくすごく楽しいよ。 顔が赤くなる事も気にならないで、思いっきりバトルが出来るなんて。 迷い込んだネットの世界。 まさかこんなふうになるなんて思いもしなかった。 ああ、もういっそ帰らなくてもいいんじゃないかな……? このままネットの世界(ココ)から戻れなかったら、みんなとずっと一緒にいれるもの。
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