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「はぁぁぁ……ここまで追い詰められるのは久しぶりだよ。ライフが尽きかけてる。仕方がない、ここは一本いっときますか。………………あれ? あれあれ? ウソだろ? 自分、そんなに使ったっけ? 最後の一本じゃないか」
ジャッキーさんのゴツイ手が印を結び、それによって出現したのは小さなカワイイ竹水筒。
中身はさっきから立て続けに飲んでる【清めのお水】……そう、ライフ回復アイテムだ。
貴重なラスト一本を、ジャッキーさんは腰に手をやりグィっと飲み干した。
「ぷはー! うまい! でもなぁ……【清めのお水】も、Sサイズじゃあ全回復とはいかないか、」
顔をしかめるジャッキーさんの頭上、残り僅かだったライフバーは全体の1/3近くまで伸びている。
フーちゃんのおかげでカンフーキャラを追い詰めるコトが出来た……けど、デフォルトのマックスライフが大きいのだ。
途中から、これもまたフーちゃんのおかげでボクのライフは温存されたけど、この段階で二人のライフは同じくらいの残量だ。
「嵐くん。キミもわかってると思うけど、お互いライフが削られてる。次のターンで決着が着くだろう。【清めの水】は底を尽きた。が、弥生の回復霊術は使わない。自分と嵐くんは互角だ。そんなもの使ってたら100年経っても決着がつかないだろうからね」
そ、そうか……いよいよ次のターンで終わるのか……ん、そうだよね。
この後、回復アイテムも無し、ヒーラーの霊力も無しでバトるんだもの。
どちらかのライフが無くなったら、即【you……die……(ゲームオーバー)】だ。
ど、どうしよう……なんだかすごく寂しくなってきた。
バトルが楽しくて、ジャッキーさんと社長と弥生さんとフーちゃんがいてくれて……このまま一緒にいられるなら……リアルに帰れなくてもいいとさえ……ん、本気で思っている。
みんなボクをリアルに帰そうとしてくれてるのに……バチ当たりだな。
「ん……? 嵐くん、どうした? 元気がないな、疲れちゃった?」
黙り込むボクを心配そうに見るジャッキーさん……ああ、優しい。
今まで……僕が黙ったからって……それを心配してくれる人は一人もいなかったのに。
やっぱり……帰りたくないよ、ネットの世界に残りたい。
みんなはリアルの生活があるから……ずっと縛る訳にはいかないけど、ボクが【マジカル陰陽師】に常駐してれば……きっと心配して会いに来てくれる……はずだ。
そうしたらまたジャッキーさんとバトルが出来るし、みんなでおしゃべりもできるし、楽しい時間を繰り返すコトが出来る……
「……あ、あの!」
「ん? なんだい? やっぱり疲れちゃった? どしてしもなら少し休んでもいいよ?」
「……いや、あの、疲れては……ないです。ちょっとだけ……その、えっと、お話したいなぁって」
「話? いいよ。なにを話そうか。それとも話したいコトがある? 聞くよ?」
ああもう……振り回してばかりのボクにイヤな顔の一つもしないんだな。
ジャッキーさんはもちろん……社長も……弥生さんも……聞く体制でいてくれる。
ボクに注目する六つの目。
リアルなら怖かったと思う、パニックになったかもしれない。
だけどネットの世界なら大丈夫、みんなキャラだもん、デジ絵だもん、リアルほど緊張しないもん。
「……あの、みなさん……ありがとうございます……なんだけど、もういいかなって……このまま帰れなくても……ネットの世界にいて、たまにみんなが会いに来てくれれば十分というか……その……だってほら、ジャッキーさんと戦って、けっこう追い詰められたのにボク、ちっとも潜在能力引き出せないし……これじゃあリアルに戻れない。かといって……みんなを……このままずっと付き合わせる訳にはいかないっていうか……それに弥生さんは明日現場でしょう? そろそろログアウトして寝なくっちゃ、だから……」
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