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ここまで……ボクにしてはたくさん話せた。
リアルならこんなに話せなかったと思うけど、バーチャルな世界がそれを可能にしてくれた。
だけど……それ以上は続かなかったの。
だって社長も……弥生さんも……それからジャッキーさんも……黙ってしまって、空気が……なんだかおかしくなったんだ。
この感じ……いつもの……ボクに向けられるモノと同じだ。
一番苦手で、一番辛くて、逃げ出したくなる空気。
普段、ボクはあまり人と話さない。
前の会社でも必要最低限の事だけだった。
下手に話すと空気が……固まるんだ。
人前だと極度に緊張するし、まわりはそんなボクを見て、戸惑ったり、イライラしたり、同情したり、馬鹿にしたり……とにかく、好意的な空気は一つもないの。
そんな空気が流れだすと、ボクはいたたまれなくなるんだ。
ボクがいなければ、みんなは楽しそうに笑うのに、そこにボクが現れれば、それだけでシンとなる。
静まり返って……溜息つかれて……小さな声で笑われて……ボクがいなくなるまで……誰も話さなくなっちゃうの。
そういうの、”おくりび”に入社してからはなかったし、ネットの世界でも……ぜんぜん……なかったのに。
ボクが……リアルに戻らなくていいなんて、ヘンなコト言っちゃったから……さっきまでのイイ雰囲気が壊れちゃった。
ああ、油断した……楽しくて嬉しくて、みんなの一員になれた気がして、調子に乗ったんだ……ボク……嫌われたかも……
やだな……どうしていつもこうなんだろう……まともに人と付き合えない。
ボクは……頭がおかしいのかもしれない。
シンと静まった中、最初に口を開いたのはジャッキーさんだった。
「そうだ……そうだ、そうだ、そうだ! 忘れてたっ! 今何時だ? 弥生、おまえはもうログアウトして寝ろ! 明日現場じゃないか!」
え……っと、そういえば言ってたな、弥生さんは早く帰すって。
「早く寝ろ!」と繰り返すジャッキーさんに対し弥生さんは……
「えぇ? ヤダよ、ここまで付き合ったんだ、もうちょっといいだろう? つーか、嵐ちゃん! ログアウトしろとか言っちゃダメ! せっかくジャッキーが忘れてたのにー!」
きゃーっと叫んでボクの後ろに隠れたの。
ジャッキーさんは「逃がすか!」なんて物騒なコトを言いながら、弥生さんを追いかけて……ボクは二人の間でもみくちゃされたんだ。
そんな二人を見ていた社長は、受け身を取りながら転がってきて……
「ジャッキー心配すんな。1日くれぇの徹夜なんざどうってコトねぇよ。弥生はババァだけど体力だけはあるからなっ!」
えぇ……!
信じられなかった。
女の人に……しかも弥生さんに……バ、ババァだなんて……これはタダでは済まないぞと心配してたら……案の定。
社長は本気で怒った弥生さんにしこたまシバかれたんだ。
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