第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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ここまで……ボクにしてはたくさん話せた。 リアルならこんなに話せなかったと思うけど、バーチャルな世界がそれを可能にしてくれた。 だけど……それ以上は続かなかったの。 だって社長も……弥生さんも……それからジャッキーさんも……黙ってしまって、空気が……なんだかおかしくなったんだ。 この感じ……いつもの……ボクに向けられるモノと同じだ。 一番苦手で、一番辛くて、逃げ出したくなる空気。 普段、ボクはあまり人と話さない。 前の会社でも必要最低限の事だけだった。 下手に話すと空気が……固まるんだ。 人前だと極度に緊張するし、まわりはそんなボクを見て、戸惑ったり、イライラしたり、同情したり、馬鹿にしたり……とにかく、好意的な空気(モノ)は一つもないの。 そんな空気が流れだすと、ボクはいたたまれなくなるんだ。 ボクがいなければ、みんなは楽しそうに笑うのに、そこにボクが現れれば、それだけでシンとなる。 静まり返って……溜息つかれて……小さな声で笑われて……ボクがいなくなるまで……誰も話さなくなっちゃうの。 そういうの、”おくりび”に入社してからはなかったし、ネットの世界(ココ)でも……ぜんぜん……なかったのに。 ボクが……リアルに戻らなくていいなんて、ヘンなコト言っちゃったから……さっきまでのイイ雰囲気が壊れちゃった。 ああ、油断した……楽しくて嬉しくて、みんなの一員になれた気がして、調子に乗ったんだ……ボク……嫌われたかも…… やだな……どうしていつもこうなんだろう……まともに人と付き合えない。 ボクは……頭がおかしいのかもしれない。 シンと静まった中、最初に口を開いたのはジャッキーさんだった。 「そうだ……そうだ、そうだ、そうだ! 忘れてたっ! 今何時だ? 弥生、おまえはもうログアウトして寝ろ! 明日現場じゃないか!」 え……っと、そういえば言ってたな、弥生さんは早く帰すって。 「早く寝ろ!」と繰り返すジャッキーさんに対し弥生さんは…… 「えぇ? ヤダよ、ここまで付き合ったんだ、もうちょっといいだろう? つーか、(らん)ちゃん! ログアウトしろとか言っちゃダメ! せっかくジャッキーが忘れてたのにー!」 きゃーっと叫んでボクの後ろに隠れたの。 ジャッキーさんは「逃がすか!」なんて物騒なコトを言いながら、弥生さんを追いかけて……ボクは二人の間でもみくちゃされたんだ。 そんな二人を見ていた社長は、受け身を取りながら転がってきて…… 「ジャッキー心配すんな。1日くれぇの徹夜なんざどうってコトねぇよ。弥生はババァだけど体力だけはあるからなっ!」 えぇ……! 信じられなかった。 女の人に……しかも弥生さんに……バ、ババァだなんて……これはタダでは済まないぞと心配してたら……案の定。 社長は本気で怒った弥生さんにしこたまシバかれたんだ。
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