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それにしてもだ。
嵐さん、けっこうたくさん話してくれる。
そりゃ、距離は置かれてるけど、背中向けて顔見てくれないけど、それでもこんなに、しかも嵐さん自身の話をしてくれるのが嬉しかった。
だけど、あえてそこには触れないようにしていた。
わざわざそんなコト言ってしまって意識させてしまったら、嵐さん、また話せなくなっちゃうかもしれないもの。
ま、今日はキーマンさんも一緒だからね。
僕と二人っきりの現場だったらこうはいかなかっただろう。
良かった、最初はスリーマンセルで。
あ、そういえばキーマンさんどうしてる?
途中から「マルコー、ポーロー」って聞こえなくなったけど。
やけに静かだなと辺りを見渡せば……いた。
キーマンさんはたくさんある木々の一本。
そこの根元にしゃがみ込んでいた。
その後ろ姿は静止したまま俯いてるように見える。
なにか見つけた……?
もしかして、とうとうバッドベアーを発見したとか……?
「ねぇ、嵐さん。あそこ見て、木のトコロ。キーマンさんがしゃがみ込んだまま大人しくしてる。さっきまでずっとなんか喋ってたのに。静かにしてるとなんだか心配になっちゃうよ。ちょっと行ってみない?」
僕がそう言うと嵐さんも、
「そ、そうだね……キーちゃんが静かだと不安になる。行ってみよう」
と、こちらに振り向いた。
目が合うと嵐さんは、途端ギョッとした顔になり視線をそらしてしまう。
うぅ……いっぱい話してくれて嬉しかった分、なんだか淋しい。
ともかく気を取り直し、歩いて数十歩程度の距離を行く。
空からは、青々と重なる葉の隙間から落ちる陽の光。
それがキーマンさんのウェーブがかった茶色の髪をワントーン明るくさせて、男性の髪だけどツヤツヤでキレイだな……なんて見入ってしまう。
そんなミスターキューティクルの背中、僕と嵐さんは二人して声をかけた。
「キーマンさん、」
「キーちゃん」
するとキーマンさんはしゃがんだままゆっくりと振り向いてニヤリと笑った。
「ジェーン、チェリーボーイ、待たせたな。ココにいたよ。みどりにちょっかいを出すバッドベアー。かくれんぼは終わりだ、ファウーーーンド イット!」
えぇ!?
もう!?
この人ホントに探知の達人だ、先代や社長の言った通りだ……!
びくりしてキーマンさんの肩越しから覗き込む……
と、そこには一見それと分からない、ボロボロな黒い塊……古すぎるテディベアがあった。
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