第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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____ファウンドイット(見つけた) そう言ったキーマンさんの足元にあるバッドベアー(やんちゃなクマ)。 本当によく見つけたな……というくらい、その姿は可愛らしいイメージのテディベアとはかけ離れ、原型を留めていなかった。 元は何色だったんだろう? クマの縫いぐるみなら……茶色か……クリーム色……あたりかな? でも……このテディベアはドスのきいた黒だった。 泥と埃、それから長年の雨水が滲み込みこんでいるような。 ずっしりと重たそうでグチャグチャで、直接手で触れるのをためらってしまう。 形も崩れ、ふっくらとしていたはずのカラダは潰れてぺしゃんこだった。 それから……顔。 目と鼻はボタンだと斎藤様が言っていたけど……それもよく見ないとわからない。 ボタンにツヤはなくくすみ、ひび割れ、糸ももろく、緩くたわんで、いつ落ちてもおかしくない状態だ。 10年の月日。 元は斎藤様のお姉さまに、可愛がられていた幸せなテディベアだったはずなのに。 それが突然斎藤様にさらわれて、お腹を裂かれ、呪いの道具にされた挙句、林の中に置き去りにされたんだ。 それまでは屋根のある部屋の中にいたというのに。 雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も、誰にも見つけられず林の中に放置された……思えば……バッドベアー(やんちゃなクマ)もかわいそうなのかもしれない。 だけど、自身の罪を反省し、謝罪する斎藤様を長きに渡り苦しめる。 生者に害を成すクマを見逃す訳にはいかない。 「フォー ナウ(とりあえず)……」 キーマンさんは男性にしては細い腰、そこに下がるレザーのウエストバックからビニールの風呂敷のような物を取り出した。 その上に、汚れたバッドベアー(やんちゃなクマ)を……手が汚れるのも構わずに丁寧に乗せた。 「失せ物探しオンリーのリクエストならこれでミッションコンプリートなんだが……ァァァアア……アウイェッ! 今回は、バッドベアー(やんちゃなクマ)のゴキゲンも伺わなくちゃならない。というコトでキャサリン、チェリーボーイ、バトンタッチだ。なんたって俺には霊感がない。ベアーボイスもスピリットバディ(霊体)キャン ノット シー(見えない)だからなっ!」 ンーフッ! と、大袈裟に肩をすくめるキーマンさん。 (らん)さんは「あとはまかせて」とニコッと笑う。 僕は目の当たりにした探知の技に、じわじわ興奮が込み上げていた。 このスキル、僕もぜひぜひ習得したい。 急いで出かける時に限って、スマホや家のカギがなくなる……なんてコトがよくあるんだけど、探知が出来れば慌てなくてすむもんね。 ともかく、まずは目の前のバッドベアー(やんちゃなクマ)と話をしなくっちゃ。 ベアーはずいぶんと大人しいけど、汚れた縫いぐるみ……あの器の中(・・・)で息を潜めているのだろうか? 出てきてもらわないコトには話が出来ない。 10年も放置され、斎藤様を脅し続けたバッドベアー(やんちゃなクマ)。 まともに話を聞きだす事ができるだろうか? 少々の不安はあるけど、(らん)さんもいる、僕もいる。 二人がかりで時間をかけて聞き出すしかないな。 この時不意に、キーマンさんの髪色がワントーン下がった。 木々の隙間から零れ降る光が何かに遮られ、元の色に戻ったのだ。 僕は当然、6月の厚い雲が上空で流れ、空と僕達の間に入ったものとばかり思っていた。 だから顔さえも上げず、キーマンさんの髪をチラリと見て、その後は汚れたバッドベアー(やんちゃなクマ)と、そして(らん)さんを盗み見て、話をどう聞き出すか、なんて考えていたのだが…… 「お、お、岡村さん……!」 (らん)さんの震える声に顔を上げた。 シャイすぎる先輩霊媒師とガッツリ目が合う。 ギョッとして目をそらすはずの(らん)さんはそのまま僕を見続けて、かと思うと目線を上に上げ、また下げてと繰り返す。 どうしたの? そう聞く前に(らん)さんが言った。 「う、う、う、後ろ……後ろ……」 「ん? どうしたの? 後ろって?」 言われるまま振り返る……と、 『ガァァ……ガァァ……ガァァァァァァアアアアアアアアッッ!!』 そこに視たのは、木々と同等の大きさの黒い塊。 目の部分と思わしき箇所が赤く炎のように燃えていた。 ぶわっと一瞬で鳥肌が立つ。 コイツ……なんなんだ……?
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