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『ガァァァアアアアアアアッ!!』
バッドベアー(大)の咆哮が、さっきよりも近くに感じる。
クマの動きは鈍いけど、立ち止まっている訳じゃないのだ。
遅かれ早かれ見つかってしまうだろう。
モタモタしてはいられない。
「しゃ、社長から聞いたけど、お、岡村さんのスキルは、霊体への物理干渉なんだよね?」
キーマンさんから貰った緑のコントロールベース。
これを塗った効果だろう、今の嵐さんの顔は赤くない。
だけど耳はまるで火の色だ。
ホントは顔も赤くって、緊張して辛いんだろうに。
それでも一生懸命話してくれる。
ありがとね。
その気持ちに応えるよ、僕も全力で応えるからね。
「うん、そうだよ。付け加えるなら霊から僕への物理干渉も可能なんだ。だから生者同士の接触となんら変わりがないの」
僕がそう答えると嵐さんはすごく驚いて、
「霊からも触れるの?……そ、そんな事が可能なんだ……それって怖いよね」
と心配そうに眉を寄せた。
そしてこう続ける。
「ほ、ほかのスキルは? お、岡村さんが出来るコト、ぜんぶ教えて」
そこで僕は霊矢が使える事を話した。
「水渦さんから教わったんだ。僕の霊矢は赤色で、放つ本数に制限は無い。だから無限に撃つ事が出来るの。ただし発動までに、少し時間がかかっちゃう。工程長めの印をフルに結んで、一本目が撃てるまでの所要時間は3分から5分くらい。まだ習得したばかりだから、水渦さんみたいに印をスキップする事は出来なくて……それで、ごめん。今の僕に出来るコトはこれだけなの、」
霊矢しか撃てない……カッコ悪いけど正直に話した。
スキルを偽って、出来ないコトまで出来ると言ったら(や、そんなコト言うつもりはないけどさ)キーマンさんや嵐さんに迷惑がかかる。
そのせいで二人に危険が及ぶかもしれない。
そんなのは絶対にいやだ。
だったらカッコ悪くても正確に話した方がいい。
「ま、まだ霊媒師になって二か月でしょう? 霊矢が撃てるだけでもすごいよ。し、しかも無制限だなんて充分なスキルだ。……ん、そうだな、岡村さんは遠戦向きかも」
「エンセンムキ?」
「うん、遠くで戦うと書いて”遠戦”。……ねぇ、こうしよう。岡村さんは十分な距離を取って、霊矢をいっぱい撃ち込むの。それでクマちゃんの霊力を出来るだけ削ってほしいんだ。削ってくれたら、その後はボクが行く。距離を詰めて接近戦に持ち込んで……滅さずに拘束するから」
拘束か。
嵐さん、バッドベアー(大)を、すぐに滅するつもりはないんだな。
まずは話を聞こうとしてるんだ。
ははは……こんなん、水渦さんにイライラされる訳だ。
彼女なら迷わず滅するだろうからねぇ。
「うん、わかった。その流れでいこう」
凝った作戦を練る時間はない。
シンプルイズベストだ。
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