第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「よし……撃つぞ……」 最大のチャンスだ。 一度撃てば居場所が知れる。 二度目以降はクマ太郎も警戒する。 だから最初は霊力(ちから)強めに、思いっきり、強烈なのを……と、思うのに………………クソッ!  なぜか撃てない、ためらってしまう。 いいから撃て! 何度も自分に言い聞かせた……が、あと一歩が及ばない。 はぁぁ……なにやってんだ。 仕方なく僕は一旦両手を下した。 林の中は涼しくて湿度も低いというのに額から汗が滲む。 撃たなくちゃ……アイツの霊力(ちから)を削らない事には話が進まない。 待機している(らん)さんとキーマンさんに迷惑がかかる。 頭でわかっちゃいるんだけど……こんな時に不意に思い出してしまったんだ。 斎藤様から聞いたバッドベアー(やんちゃなクマ)の言葉を。 ____オレノハラヲ裂イタクセニ、 ____スゴクイタカッタ、 ____イマダッテイタイ、 ____裂イタ……傷ニ……ルリノ……髪ト爪……イレラレタ、 ____イタイ……イタイ痛イ痛イイタインダヨォォォォッ!! 悲痛な叫びだ。 もし……もしもだよ? 斎藤様がお姉さまを呪おうなんて思わなかったら。 きっと今でも幸せなテディベアでいられたんじゃないだろうか。 看護師を目指すお姉さまと一緒に東京に引っ越してさ、抱っこされて、撫ぜられて、古くなっても可愛がられてさ。 それが……さらわれて、おなかを裂かれて、外に捨てられ置いてけぼりだ。 斎藤様じゃないが呪いたくもなるだろう、恨みたくもなるだろう。 だからクマは、呪い対象のお姉さまではなく、斎藤様に憑りついているんじゃないかな……? ああ、そうか。 もしかして(らん)さんも同じ事を考えたのかな? だから滅さずに話を聞こうとしたのかな? うん……そうだ。 話がしたい。 クマの気持ち、クマの悲しみ、クマの恨み、そういうのぜんぶ聞かせてほしい……それには。 やっぱりクマの霊力(ちから)を削るしかない。 大人しくさせなくちゃ。 僕は改めて両手両五指をクマに向けた。 まだ僕に気付いていない。 不意打ちチャンスだ、……チャンスなんだけどさ。 あーあ、もしも水渦(みうず)さんがココにいたら、きっと僕にガチギレするんだろうな。 あはは、いなくて良かった。 僕は大きく息を吸った。 そして、 「大変恐縮では御座いますがぁぁぁ! 撃たせて頂きますぅぅぅっ!!」 腹の底から大声を上げた。
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