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「よし……撃つぞ……」
最大のチャンスだ。
一度撃てば居場所が知れる。
二度目以降はクマ太郎も警戒する。
だから最初は霊力強めに、思いっきり、強烈なのを……と、思うのに………………クソッ!
なぜか撃てない、ためらってしまう。
いいから撃て!
何度も自分に言い聞かせた……が、あと一歩が及ばない。
はぁぁ……なにやってんだ。
仕方なく僕は一旦両手を下した。
林の中は涼しくて湿度も低いというのに額から汗が滲む。
撃たなくちゃ……アイツの霊力を削らない事には話が進まない。
待機している嵐さんとキーマンさんに迷惑がかかる。
頭でわかっちゃいるんだけど……こんな時に不意に思い出してしまったんだ。
斎藤様から聞いたバッドベアーの言葉を。
____オレノハラヲ裂イタクセニ、
____スゴクイタカッタ、
____イマダッテイタイ、
____裂イタ……傷ニ……ルリノ……髪ト爪……イレラレタ、
____イタイ……イタイ痛イ痛イイタインダヨォォォォッ!!
悲痛な叫びだ。
もし……もしもだよ?
斎藤様がお姉さまを呪おうなんて思わなかったら。
きっと今でも幸せなテディベアでいられたんじゃないだろうか。
看護師を目指すお姉さまと一緒に東京に引っ越してさ、抱っこされて、撫ぜられて、古くなっても可愛がられてさ。
それが……さらわれて、おなかを裂かれて、外に捨てられ置いてけぼりだ。
斎藤様じゃないが呪いたくもなるだろう、恨みたくもなるだろう。
だからクマは、呪い対象のお姉さまではなく、斎藤様に憑りついているんじゃないかな……?
ああ、そうか。
もしかして嵐さんも同じ事を考えたのかな?
だから滅さずに話を聞こうとしたのかな?
うん……そうだ。
話がしたい。
クマの気持ち、クマの悲しみ、クマの恨み、そういうのぜんぶ聞かせてほしい……それには。
やっぱりクマの霊力を削るしかない。
大人しくさせなくちゃ。
僕は改めて両手両五指をクマに向けた。
まだ僕に気付いていない。
不意打ちチャンスだ、……チャンスなんだけどさ。
あーあ、もしも水渦さんがココにいたら、きっと僕にガチギレするんだろうな。
あはは、いなくて良かった。
僕は大きく息を吸った。
そして、
「大変恐縮では御座いますがぁぁぁ! 撃たせて頂きますぅぅぅっ!!」
腹の底から大声を上げた。
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