第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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前回、弥生さんとのツーマンセルでご教授いただいた【喧嘩のアドバイス三か条】のうちの1つ。 ____大声で威嚇しろ、 この教えに従い叫びながら霊矢を撃った。 僕の手から合計10本。 開いた指の形のままに、扇状に宙を切る。 ジュッ! ジュッジュッ!  焼けるような音が重なる。 視れば赤い霊矢は、10本すべて外れる事なくクマ太郎のオシリに刺さっていた。 『ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』 クッ…………! 耳が痛い……! すごい音量だ……! 僕はたまらず耳を塞く。 クマ太郎はオシリが痛いのか、ジタバタしながら身体を捻り、刺さった霊矢を抜こうとしている……のだが、手が短くて届かない。 矢羽に爪がかすめるも、スカッスカッと空振りしてる。 や……てか、そもそも無理だろ。 届いたとして、霊矢に対して丸い手が大きすぎるもの。 霊矢を抜こうとクマが頑張っている間、これはチャンスと距離をとって移動する。 クマ太郎の顔が遠すぎて不確かだけど、撃った僕をチラッと視た気がするんだよ。 だとすれば、いつまでもココにいるのは危険だ。 居場所を頻繁に変えた方が良いだろう。 攻撃されればモロにダメージを食らう。 ダメージだけで済めばいいけど(それもヤダけど)、致命傷、もしくは、あの巨体に踏まれでもしたら……黄泉の国でマジョリカさんに会う事になる。 それはそれで嬉しいけれど、出来ればまだ、彼女を現世に呼んでお会いしたい。 『ガァァァアアアアアアアアッ!! ウッガァァァアアアアアッ!!』 ドスンドスンッ!! うわぁ!! 背後でクマの咆哮がして、地面が大きく揺れた。 ヨタっとしたのを立て直し、走りながら振り向けば、巨体は激しく地団駄を踏んでいるところだった。 え、ちょ、もしかして、手が届かなくて癇癪起こしちゃったのかな? と一瞬笑いそうになったが……笑えなかった。 だってクマ太郎の目がマジなんだよ。 動きはすこぶるファニーなのに、両眼は真っ赤に燃えて『絶対に許さないクマー!(あくまでイメージです)』と、黒い怒りを溢れさせていた。 ヤバイぞ! クマ太郎、めっちゃキョロキョロしてるじゃん! アレ絶対僕を探してる! 捕まったら終わる、捕まったら終わる、呪文のように唱えながら、次の霊矢を撃つ為の、ナイスなポジションを探り走る。 その間もクマ太郎の地団駄は止まらなく、地震のように大地が揺れる。 走りにくいったらありゃしない。 もうこれ距離さえ取れれば、どこでもいいんじゃないか? 僕は適当なところで立ち止まり、両手両五指を巨体に向けた。 そして、 「ファイヤアウェイ(撃て)!」 年甲斐もない掛け声で第二弾の霊矢を撃った。 ジュッ! ジュッ! 今度は丸い胴体の下の方、ポテッとした下っ腹に突き刺さる。 『ガァァァアアアアアアッ!!』 横一列に並ぶ霊矢を、クマ太郎は短い手で懸命に抜こうとした。 今度は手が届くようだ。 けれど、僕の最初の予想通り、霊矢に対して手も指も大きすぎて、うまく掴む事が出来ないみたい。 プルプルプルプル……スカッ! スカッ! 数度の掴み損ねで学習した(たぶん)クマ太郎は、爪先で慎重に霊矢を抜こうとするが、スカッスカッと失敗連発。 やっぱりね……どこもかしこも丸いからなぁ。 細かい作業に不向きなボディだ。 ダンダンダンダンッ! 地団駄を繰り返し、ムキーッ! となる巨大クマ。 今度はオシリの霊矢が気になりだして、霊体(からだ)を捻っちゃその場でクルクル回ってる。 コレ……視たコトがあるな。 どこで視たんだっけ……って思い出したわ。 たまに大福がやるやつだ。 自分の尻尾を追いかけて、だけど捕まえられなくて、その場でクルクル回り出しちゃうの。 ん……なんかアレだな。 クマ太郎、思ってたのと少し違うかも。
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