第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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振り向いて、そこにいたバッドベアー(やんちゃなクマ)は、巨大な丸い手を僕に向かって振り落とすところだった。 「よけてっ!!」 (らん)さんの叫び声。 答える余裕は微塵もなくて、息を止めて横に飛んだ。 ドンッ!! 間一髪……! さっきまで僕のいた場所には、巨大な拳が地にめり込んでいる。 『グゥゥ、』 外した拳を戻しながら、短く唸るクマの声は音量が抑えられ、さっきのような咆哮とまではいかない。 もっとこう探るような、落ち着きを取り戻したような、そんな感じの声だった。 感情のままに咆哮しながら、ウロウロと歩きまわりながら、闇雲に僕を探していた時の方がよっぽど楽だったよ。 今みたいに冷静に、無駄に動かず、確実に狙いを定める……正直怖い。 マズイ……! マズイぞ……! とにかく一旦距離をとらなきゃ! そう思って走り出そうとしたけれど、足首にズキッと鋭い痛みを感じて、僕は思いっきり前に転んだ。 「岡村さん! 立って! 走って!」 (らん)さんの怒鳴り声に励まされ、なんとか立って走りだすけど、痛みがキツクてスピードが出ない。 クソッ! クマを避けようと飛んだ時だ。 着地の大地は足元が悪い。 草や木の根っこ、木の実に石ころ、不揃いな硬いモノがそこいらじゅうにある。 転ばないように変な体勢で着地したから、その時に捻ったのかもしれない。 戦い慣れしてない僕は、こういう凡ミスをするんだな。 弥生さんなら、ジャッキーさんなら、社長なら、こんなミスは絶対しない。 「岡村さん! 大丈夫!? すぐに行くから! 助けるから3分待って!」 モタモタ走る僕に向かって、(らん)さんが大声でそう言った。 「(らん)さん、ごめん迷惑かけて! 僕がもっとしっかりしてれば……!」 言っててなんだか情けなかった。 僕が油断しなければ、未熟なのに(おご)らなければ、バッドベアー(やんちゃなクマ)霊力(ちから)をゴリゴリ削り、安全に、そして(らん)さんに迷惑をかける事なく拘束が出来たのに……本当にごめんなさい。 自分のミスで先輩に迷惑をかける……そう思った途端、胃のあたりがキリキリと痛み出した。 胃を押さえて走る僕は、相当苦い顔をしてたのだろうか。 僕とガッツリ目を合わせた(らん)さんは、こう言ってくれたんだ。 「迷惑? なに言ってるの。こんなの迷惑のうちに入らないよ。困った時に助け合うのは当然でしょう? そんなに小さくならなくていい、頼ればいいよ!  ……えへへ、なんて。コレ、ボクがジャッキーさんに言われたコトバ。でも本当だよ、ボクは先輩だもん! 岡村さんは初めて出来たボクの後輩! 年上だけど、本当は岡村さんの方がスゴイけど……お願い、ボクに先輩風を吹かさせて、」 僕はもう泣きそうだった。
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