2367人が本棚に入れています
本棚に追加
振り向いて、そこにいたバッドベアーは、巨大な丸い手を僕に向かって振り落とすところだった。
「よけてっ!!」
嵐さんの叫び声。
答える余裕は微塵もなくて、息を止めて横に飛んだ。
ドンッ!!
間一髪……!
さっきまで僕のいた場所には、巨大な拳が地にめり込んでいる。
『グゥゥ、』
外した拳を戻しながら、短く唸るクマの声は音量が抑えられ、さっきのような咆哮とまではいかない。
もっとこう探るような、落ち着きを取り戻したような、そんな感じの声だった。
感情のままに咆哮しながら、ウロウロと歩きまわりながら、闇雲に僕を探していた時の方がよっぽど楽だったよ。
今みたいに冷静に、無駄に動かず、確実に狙いを定める……正直怖い。
マズイ……!
マズイぞ……!
とにかく一旦距離をとらなきゃ!
そう思って走り出そうとしたけれど、足首にズキッと鋭い痛みを感じて、僕は思いっきり前に転んだ。
「岡村さん! 立って! 走って!」
嵐さんの怒鳴り声に励まされ、なんとか立って走りだすけど、痛みがキツクてスピードが出ない。
クソッ!
クマを避けようと飛んだ時だ。
着地の大地は足元が悪い。
草や木の根っこ、木の実に石ころ、不揃いな硬いモノがそこいらじゅうにある。
転ばないように変な体勢で着地したから、その時に捻ったのかもしれない。
戦い慣れしてない僕は、こういう凡ミスをするんだな。
弥生さんなら、ジャッキーさんなら、社長なら、こんなミスは絶対しない。
「岡村さん! 大丈夫!? すぐに行くから! 助けるから3分待って!」
モタモタ走る僕に向かって、嵐さんが大声でそう言った。
「嵐さん、ごめん迷惑かけて! 僕がもっとしっかりしてれば……!」
言っててなんだか情けなかった。
僕が油断しなければ、未熟なのに驕らなければ、バッドベアーの霊力をゴリゴリ削り、安全に、そして嵐さんに迷惑をかける事なく拘束が出来たのに……本当にごめんなさい。
自分のミスで先輩に迷惑をかける……そう思った途端、胃のあたりがキリキリと痛み出した。
胃を押さえて走る僕は、相当苦い顔をしてたのだろうか。
僕とガッツリ目を合わせた嵐さんは、こう言ってくれたんだ。
「迷惑? なに言ってるの。こんなの迷惑のうちに入らないよ。困った時に助け合うのは当然でしょう? そんなに小さくならなくていい、頼ればいいよ! ……えへへ、なんて。コレ、ボクがジャッキーさんに言われたコトバ。でも本当だよ、ボクは先輩だもん! 岡村さんは初めて出来たボクの後輩! 年上だけど、本当は岡村さんの方がスゴイけど……お願い、ボクに先輩風を吹かさせて、」
僕はもう泣きそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!