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「3分! 3分間だけ頑張ってっ!」
叫んだ嵐さんは、ものすごいスピードで印を結び始めた。
それは行きの車の中で見た、スマホの高速文字入力と同じくらい。
その時も若い子って入力早っ! って驚いたけど、僕は再び目を見張った。
速すぎて手指が完全に溶けている、印の形が本気で見えない。
ス……スゴイッ!
僕はもう嵐さんに釘付けだった。
動体視力が追い付かない、きっとコレ、ボクサーだって目で追えない!
「岡村さんっ、また来てる! 逃げて!」
「え゛っ!?」
言われて振り向き、そして絶叫「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
来てるっ!
巨大なクマが向かって来てる!
当然、逃げる! 逃げますとも!
だがしかし、走りだそうと一歩踏み出し激痛が!
痛ーいっ!
そうだった!
足痛いんだよ、走れないじゃん!
ヨタヨタの早歩きでなんとか逃げるも、ダメ、どうしよ、焦れば焦る程足がもつれる。
だったら焦るなって話だけど、こんな時に、いや、こんな状況だからだろうか。
今になって思い出すんだ。
さっき、クマが僕を叩き潰そうとした場面。
ギリギリ、間一髪で助かったけど、下手すりゃ頭から潰された。
思い出すと足が震える、怖かった、だって僕のスキルは霊との物理干渉で(ry
「岡村さん無事!? あと1分だからっ!」
「うんっ! あと1分ね! わかった! 大丈夫! 余裕! だから早く来てー!」
前半見栄を張ったけど、後半は本音ダダ洩れ。
ははっ、なんて空元気で笑ってみたが、直後、僕の顔は固まった。
とうとう追いついてきたバッドベアーは、僕を見下ろし、巨大な腕を振り上げたのだ。
恐怖の再来。
さっきは避けれた、でも今は?
無理だ……足も痛いし、なにより身体が尋常じゃないくらい震えてる。
金縛りにあったように動けない、死ぬのか……? こんなところで?
……
…………弥生さん……!
最後に逢いたかった、僕はあなたの事が本気で……!
視界に映る巨大な拳が振り下ろされた。
恐怖は脳を麻痺させるのか、それはゆっくりとスローモーションのように視えた。
耳鳴りがひどい、小鳥のさえずりが輪唱のように重なって、ぶれて、頭の中に響いてる。
____……願い……岡村さ、を……助け……
____クマは……滅しちゃ……ダ……メ!
____……はボクが、……はオートで、
嵐さんの声が聞こえる。
でもはっきりしない、耳鳴りがジャマをするし、拳が怖くてそれどころじゃない、
____さぁ……行ってらーーーーーーーーーーーーーーー!!
クマの拳で視界が埋まる、避けられない。
ああそうだ、死んだら黄泉の国に行く前に、みんなに会いに行こう。
お世話になった最後のご挨拶だ。
あと……弥生さんに好きだと言おう。
気持ちだけ伝えるんだ。
伝えたら、大福と一緒に黄泉の国へ、
ドンッッッ!!!
え……?
【死んでから計画】を練っていた僕の目の前。
視界はクマの拳でいっぱいだったはずなのに、そこにドデカイ2つの背中が加わった。
筋骨隆々、服の上からでも強靭な筋肉が伺える。
え……?
え……?
この背中……一人は黒地に金ラメ線のジャージ上下着用で、もう一人は茶色のカンフースーツ着用だ。
ジャージ上下はツルツル頭、カンフースーツはクシャクシャ頭。
この二人って……!
「岡村さん! お待たせ! もう大丈夫だからっ! 最強の二人が守ってくれるからね!」
叫ぶ嵐さんに振り向くと、手に何かを持っている。
あれは……オレンジ色でキラッキラに輝く……コントローラー?
それを両手にしっかり持って、なにやら操作してるみたい。
「岡村さん、よく知る顔でしょ? ボクが構築したキャラなんだ。最強の男達。社長と、それからジャッキーさん。本物とほぼほぼ同じ能力を持つの。社長はボクが動かしてるけど、ジャッキーさんはオートで動く。操作のリバースもできるけど、とりあえず今はそんな感じ」
オドオド感は微塵もない。
コントローラーを持つ嵐さんは自信に満ち溢れていた。
「嵐さんの接近戦って……もしかして」
僕がそう聞くと、
「うん、接近戦で実際に戦うのはプレーヤーなの。ボクの永久指名プレーヤー。社長とジャッキーさんが戦うよっ!」
マジか……
こりゃ、負ける気がしないよ……!
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