第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「3分! 3分間だけ頑張ってっ!」 叫んだ(らん)さんは、ものすごいスピードで印を結び始めた。 それは行きの車の中で見た、スマホの高速文字入力と同じくらい。 その時も若い子って入力早っ! って驚いたけど、僕は再び目を見張った。 速すぎて手指が完全に溶けている、印の形が本気で見えない。 ス……スゴイッ! 僕はもう(らん)さんに釘付けだった。 動体視力が追い付かない、きっとコレ、ボクサーだって目で追えない! 「岡村さんっ、また来てる! 逃げて!」 「え゛っ!?」 言われて振り向き、そして絶叫「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  来てるっ!  巨大なクマが向かって来てる! 当然、逃げる! 逃げますとも! だがしかし、走りだそうと一歩踏み出し激痛が! 痛ーいっ! そうだった!  足痛いんだよ、走れないじゃん! ヨタヨタの早歩きでなんとか逃げるも、ダメ、どうしよ、焦れば焦る程足がもつれる。 だったら焦るなって話だけど、こんな時に、いや、こんな状況だからだろうか。 今になって思い出すんだ。 さっき、クマが僕を叩き潰そうとした場面。 ギリギリ、間一髪で助かったけど、下手すりゃ頭から潰された。 思い出すと足が震える、怖かった、だって僕のスキルは霊との物理干渉で(ry 「岡村さん無事!? あと1分だからっ!」 「うんっ! あと1分ね! わかった! 大丈夫! 余裕! だから早く来てー!」 前半見栄を張ったけど、後半は本音ダダ洩れ。 ははっ、なんて空元気で笑ってみたが、直後、僕の顔は固まった。 とうとう追いついてきたバッドベアー(やんちゃなクマ)は、僕を見下ろし、巨大な腕を振り上げたのだ。 恐怖の再来。 さっきは避けれた、でも今は? 無理だ……足も痛いし、なにより身体が尋常じゃないくらい震えてる。 金縛りにあったように動けない、死ぬのか……? こんなところで? …… …………弥生さん……! 最後に逢いたかった、僕はあなたの事が本気で……! 視界に映る巨大な拳が振り下ろされた。 恐怖は脳を麻痺させるのか、それはゆっくりとスローモーションのように視えた。 耳鳴りがひどい、小鳥のさえずりが輪唱のように重なって、ぶれて、頭の中に響いてる。 ____……願い……岡村さ、を……助け…… ____クマは……滅しちゃ……ダ……メ!  ____……はボクが、……はオートで、 (らん)さんの声が聞こえる。 でもはっきりしない、耳鳴りがジャマをするし、拳が怖くてそれどころじゃない、 ____さぁ……行ってらーーーーーーーーーーーーーーー!! クマの拳で視界が埋まる、避けられない。 ああそうだ、死んだら黄泉の国に行く前に、みんなに会いに行こう。 お世話になった最後のご挨拶だ。 あと……弥生さんに好きだと言おう。 気持ちだけ伝えるんだ。 伝えたら、大福と一緒に黄泉の国へ、 ドンッッッ!!! え……? 【死んでから計画】を練っていた僕の目の前。 視界はクマの拳でいっぱいだったはずなのに、そこにドデカイ2つの背中が加わった。 筋骨隆々、服の上からでも強靭な筋肉が伺える。 え……? え……? この背中……一人は黒地に金ラメ線のジャージ上下着用で、もう一人は茶色のカンフースーツ着用だ。 ジャージ上下はツルツル頭、カンフースーツはクシャクシャ頭。 この二人って……! 「岡村さん! お待たせ! もう大丈夫だからっ! 最強の二人が守ってくれるからね!」 叫ぶ(らん)さんに振り向くと、手に何かを持っている。 あれは……オレンジ色でキラッキラに輝く……コントローラー? それを両手にしっかり持って、なにやら操作してるみたい。 「岡村さん、よく知る顔でしょ? ボクが構築(プログラミング)したキャラなんだ。最強の男達。社長と、それからジャッキーさん。本物とほぼほぼ同じ能力を持つの。社長はボクが動かしてるけど、ジャッキーさんはオートで動く。操作のリバースもできるけど、とりあえず今はそんな感じ」 オドオド感は微塵もない。 コントローラーを持つ(らん)さんは自信に満ち溢れていた。 「(らん)さんの接近戦って……もしかして」 僕がそう聞くと、 「うん、接近戦で実際に戦うのはプレーヤーなの。ボクの永久指名プレーヤー。社長とジャッキーさんが戦うよっ!」 マジか…… こりゃ、負ける気がしないよ……!
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