第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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『グゥゥゥゥ……!』 巨大クマが地鳴りの唸りを響かせた。 両眼は激しく燃えて、角度を増して吊り上げている。 相当にお怒りだ……って、そりゃそうか。 僕を潰すはずだったのに、突如それを阻止されたんだ。 阻止をして怒りを買った男二人は、それぞれの片腕を天に上げ、その先端、大きな手のひらをクマの拳に食い込ませていた。 『……グゥゥゥ……ッ!!』 巨大なクマは邪魔な二人を潰そうとしてるのか、丸い霊体(からだ)を前に倒して体重をかけた、が、鋼の男達はビクともしない。 片腕を上げたまま、クマの霊体(からだ)を抑えたままだ。 す……すごいな、バッドベアー(やんちゃなクマ)の全長は、目測三階建ての建物くらい。 対して社長の身長は190センチ強、ジャッキーさんは180センチ強、人としては大きいけれど、だからどうしたレベルの体格差だ。 『ガァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!』 いつまでたっても潰れてくれない、そんな苛立ちがピークに達したのか、バッドベアー(やんちゃなクマ)は激しく咆哮した。 耳を(つんざ)く大音量に身がすくむ。 その時、咆哮に混じり(らん)さんの大声が飛んできた。 「岡村さんっ! 動ける!? 動けるならコッチに来て! 社長とジャッキーさんがクマちゃんを押さえてるうちに! そこにいたら危険だよ!」 コントローラーを握ったまま、僕に向かってコッチコッチと言っている。 そ、そうだよね、喜んで!  すぐに撤退しますからッ! 痛む足を庇いつつ、進行方向を(らん)さんに定めた。 巨大クマはすこぶる怖いし、撤退歓迎。 ハイ、喜んでとそのまま行こうと思ったけれど、やっぱり、ちょっと、ひと声かけたくなったんだ。 だってさ、いくら構築(プログラミング)されたキャラとはいえど、大好きな社長とジャッキーさんだもの。 助けてくれたのに無言で行くのは気が引ける。 「あ、あの! 社長、ジャッキーさん、ありがとうございます! 僕、助かりました! 二人が来てくれなかったら、確実に潰されてた……!」 背中に向かってそう叫んだ。 返事なんて期待してない、だって二人はキャラだもの。 戦闘は可能でも、フリーな会話はさすがに無理だろ。 ただ、感謝の気持ちを伝えたかった、それだけでいいと思っていた……なのに。 意外だった。 筋骨逞しい男達は僕の声に反応したのだ。 片腕を上げたまま上半身をグリンと捻り振り返ると、 『あぁ? なんてコトねぇよ、間に合って良かったな。(らん)が絶対に助けてやれって言ったんだ、アイツに感謝しとけ。 つーかよ、そもそもおまえ誰? 俺らのコト知ってんの? あ、もしかして依頼者か? って、そんな感じでもねぇよなぁ』 と社長。 え、ちょ、すっごい普通にしゃべってない? 構築(プログラミング)されたキャラだよね?  フリートークに問題なし。 まるでホンモノの社長と話してるみたいだ。 だけどなんだろ……僕のコト知らないみたいなんだけど。  え……なんで? さっき(らん)さん言ってたじゃん、「本物とほぼほぼ一緒」だって。 僕が首を傾げていると、 『待って社長、チガウ、この子は依頼者じゃないよ。だって自分を”ジャッキー”と呼んだんだ。そう呼ぶのはスタント時代の仲間達と”おくりび”の社員だけ。なぜ知ってるの? キミは誰なの?』 ジャッキーさんまでこう言った。 ちょ、ちょ、ちょ、ジャッキーさんもなの?
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