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『グゥゥゥゥ……!』
巨大クマが地鳴りの唸りを響かせた。
両眼は激しく燃えて、角度を増して吊り上げている。
相当にお怒りだ……って、そりゃそうか。
僕を潰すはずだったのに、突如それを阻止されたんだ。
阻止をして怒りを買った男二人は、それぞれの片腕を天に上げ、その先端、大きな手のひらをクマの拳に食い込ませていた。
『……グゥゥゥ……ッ!!』
巨大なクマは邪魔な二人を潰そうとしてるのか、丸い霊体を前に倒して体重をかけた、が、鋼の男達はビクともしない。
片腕を上げたまま、クマの霊体を抑えたままだ。
す……すごいな、バッドベアーの全長は、目測三階建ての建物くらい。
対して社長の身長は190センチ強、ジャッキーさんは180センチ強、人としては大きいけれど、だからどうしたレベルの体格差だ。
『ガァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!』
いつまでたっても潰れてくれない、そんな苛立ちがピークに達したのか、バッドベアーは激しく咆哮した。
耳を劈く大音量に身がすくむ。
その時、咆哮に混じり嵐さんの大声が飛んできた。
「岡村さんっ! 動ける!? 動けるならコッチに来て! 社長とジャッキーさんがクマちゃんを押さえてるうちに! そこにいたら危険だよ!」
コントローラーを握ったまま、僕に向かってコッチコッチと言っている。
そ、そうだよね、喜んで!
すぐに撤退しますからッ!
痛む足を庇いつつ、進行方向を嵐さんに定めた。
巨大クマはすこぶる怖いし、撤退歓迎。
ハイ、喜んでとそのまま行こうと思ったけれど、やっぱり、ちょっと、ひと声かけたくなったんだ。
だってさ、いくら構築されたキャラとはいえど、大好きな社長とジャッキーさんだもの。
助けてくれたのに無言で行くのは気が引ける。
「あ、あの! 社長、ジャッキーさん、ありがとうございます! 僕、助かりました! 二人が来てくれなかったら、確実に潰されてた……!」
背中に向かってそう叫んだ。
返事なんて期待してない、だって二人はキャラだもの。
戦闘は可能でも、フリーな会話はさすがに無理だろ。
ただ、感謝の気持ちを伝えたかった、それだけでいいと思っていた……なのに。
意外だった。
筋骨逞しい男達は僕の声に反応したのだ。
片腕を上げたまま上半身をグリンと捻り振り返ると、
『あぁ? なんてコトねぇよ、間に合って良かったな。嵐が絶対に助けてやれって言ったんだ、アイツに感謝しとけ。
つーかよ、そもそもおまえ誰? 俺らのコト知ってんの? あ、もしかして依頼者か? って、そんな感じでもねぇよなぁ』
と社長。
え、ちょ、すっごい普通にしゃべってない?
構築されたキャラだよね?
フリートークに問題なし。
まるでホンモノの社長と話してるみたいだ。
だけどなんだろ……僕のコト知らないみたいなんだけど。
え……なんで?
さっき嵐さん言ってたじゃん、「本物とほぼほぼ一緒」だって。
僕が首を傾げていると、
『待って社長、チガウ、この子は依頼者じゃないよ。だって自分を”ジャッキー”と呼んだんだ。そう呼ぶのはスタント時代の仲間達と”おくりび”の社員だけ。なぜ知ってるの? キミは誰なの?』
ジャッキーさんまでこう言った。
ちょ、ちょ、ちょ、ジャッキーさんもなの?
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