2367人が本棚に入れています
本棚に追加
屈強な男達は、片腕でバッドベアーを制しながら「コイツ誰?」と首を傾げる。
その態度はどことなく他人行儀で、いつものおふざけ感がまるでない。
話し方はフランクかもだが、視えない壁がそこにあるんだ。
二人共……ホントに僕を知らないみたい。
やだ、なんだろ、すっごく淋しい。
「岡村さんっ! 早く戻って!」
焦る嵐さんに呼ばれた僕は「あ、うん!」と一言返し、チラリと二人を掠め視てからその場を後にした。
痛む足にムチ打って、なんとか嵐さんに合流する。
髪と同じオレンジ色のコントローラー、これをせわしなく操作する先輩霊媒師は、
「岡村さん大丈夫? 足、痛いんでしょ?」
目線はキャラ二人に向けたままそう言った。
「うん、ごめんね。さっき捻ったみたいなんだ。でも大したコトないから心配しないで、」
本当は熱を持ってズキズキしてる、だけど精いっぱいの強がりだ。
ジャマする訳にはいかないよ。
だって今、僕の隣に立つ嵐さんは、接近戦の真っ最中だもの。
「とにかくクマちゃんを拘束しよう! 視てて、滅さずに捕まえてみせるから!」
ザザッ!
そう宣言した嵐さんは、肩幅強に足を開くと、挑む目でクマを視た。
その表情は喜々として、赤面症で悩む青年の面影はどこにもない。
「社長! ジャッキーさん! まずはクマちゃんと間合いを取りますっ!」
言いながら、コントローラーをはじきまくる指は溶けきって、なにをどう操作しているのか、僕にはまったくわからない。
だがそれはリアルタイムで社長の動きに反映された。
『キタキタキター!! 嵐! 今日もコンボは完璧じゃねぇかっ! ダァアッシャーーーッ!!』
『自分はオート! 今日は好き勝手にやらせてもうらうっ! アイヤーーーッ!!』
大きな拳を押える二人は、それぞれ叫びを霊力にかえると、バッドベアーを思いっきり突き上げた。
『ウガッ!? ウッガーーーーーーッ!!』
焦りまくったクマの咆哮。
悪霊も驚くのか……という所に驚いた僕の目の前。
ドオゥン! そんな鈍い音がして、三階建ての建物ライクなクマの巨体は、そのまま後ろに転がった。
背中を大地に、短い手足を上に向け、ジタジタバタバタ激しく暴れるバッドベアー。
胴がほぼほぼ球体ゆえに、ひっくり返った体勢は、起き上がろうにもままならない。
霊体を揺らしちゃ元に戻るその様は、”おきあがりこぼし”を連想させた。
「チャンスッ!」
隣の嵐さんが独り言ち、激しくコントローラーを操作する。
それに連動した社長が動いた。
短い距離で助走をつけて、開脚で腰を落とした次の瞬間真上に飛んだ。
た……高い!
見上げた木々のてっぺん越えで飛んだ社長は、宙で霊体をのけぞらし、両腕を頭の上に構えた。
そして落ちながら、落ちる力を自身の拳に取り込みながら____
『ダァアッシャッ!!』
バッドベアーの丸い腹に叩き込んだ。
『ッ!! ……………………ガハッ!!』
うわ……クマのおなかが谷の形にへこんでる。
その上では、ボディビルっぽいポージングを取りながら雄叫びをあげる社長。
これ……ぱっと見、どっちが悪霊だかわからないわ。
最初のコメントを投稿しよう!