第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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上半身に赤い竜を巻き付けて、必死になって走るバッドベアー(やんちゃなくま)。 だがなんたって足が短いのだ、そうそう距離は稼げない。 しかも巻き付く竜は、逃げる方向と逆に引っ張るものだから、失速も甚だしい。 『ウガァァァアアアアッ!! ウガッ!! ウガッ!! ウガガッ!!』 焦りの唸り声。 それを聞いた(らん)さんは「ク、クマちゃん、ごめんね」と呟きながらコントローラーを指で弾く……と、連動した社長が声を大にこう言った。 『あの野郎、往生際が(わり)いなぁ! オイィ! リュウコォ! 遊びは終わりだぁ! コッチに連れて来いぃ!』 反応したのはもちろん、社長の式神である赤い竜だ。 てかあの竜は女の子だったのね。 名前が”リュウコ”って……まんまだな。 その赤き竜のリュウコちゃん、社長の(めい)を受けると、鱗煌めく長い身体を更にクマに巻き付けた。 グル……グルグル……グルグルグル…… 『ウガ……ガ……ウゥ……』 な、なんだか苦しそうだな……無理もないか、全身ガッチリグルグル巻きだもの。 しかも、動けば動くほど締め付けが強くなるようで、最初こそ出ていた声も切れ切れになってきた。 それにしたってスゴイ絵だ。 黒いクマの霊体(からだ)を赤い竜が締め上げているのだ。 二体とも巨大すぎて、見上げる首が痛くなる。 リュウコちゃんはバッドベアー(やんちゃなくま)を巻いたまま宙を舞う。 ユラリユラリと優雅な動きで、こちらに向かっているところだ。 これで後はクマから話を聞きだせばいい。 確かに悪い事をしたのだけれど、ぜんぶがぜんぶクマが悪いとは言い切れないのだ。 だからじっくりと話したい。 (らん)さんは、ここでようやくコントローラーを持つ手をおろした。 操作中の凛々しい顔から、元の恥ずかしがりの顔に戻るも、変な緊張はないように見える。 社長とジャッキーさんはというと『『せーのっ! 最初はグーッ! じゃんけんポンンンッ!!』』と荒ぶった様子でジャンケンをしていた。 「えっと……あの二人はなんでジャンケンに熱くなってるの?」 ポカンとしつつ(らん)さんに聞いてみると、 「あれはね、次の現場で接近戦になった時、攻撃の先行、後攻を決めてるんだよ。最初の頃、二人とも『先に行きたい!』って譲らないから、それならジャンケンで決めればって言ったの」 なるほどね、そういうコトなんだ。 てか二人とも先に行きたいんだな、オリジナルと一緒で血の気が多いわ……なんて思っていたら。 『勝ったーーーーーっ! 次は自分が先に行かせてもうらう!』 『ま、負けた……クッソー! オイ、ジャッキー! 一発で仕留めるなよ!』 あらら、社長は負けちゃったのね。 しかし仲良いなぁ。 社長とジャッキーさんだけじゃなく、(らん)さんと三人で仲良しなんだよな。 なんだかちょっとヤキモチやいちゃう……あ、そういえば。 「ねぇ、(らん)さん。キャラの社長とジャッキーさん。オリジナルとほぼ一緒だって言ってたよね? なのになんで僕のコト知らないの? さっき『おまえ誰?』って言われてさ、正直……淋しかった……」 社長とジャッキーさんの他人行儀な態度に、僕はすこぶるハートブレイクなのだ。 「あ……ごめん。ボク、岡村さんに会うの今日が初めてでしょう? 昨日までどんな人か全然知らなかったから……キャラ二人に岡村さんの情報が入ってないの。この現場が終わって家に帰ったらアップデートしとくからね。そうすれば次回からは岡村さんのコトもわかるから安心して」 「わぁ、ありがとう!」 そうか、そういうコトだったんだ。 キャラ二人を構築(プログラミング)してるのは(らん)さんだもんね。 その(らん)さんが僕を知らなかったんだ、そりゃアップデート出来る訳ないよ。
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