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僕と嵐さんと社長とジャッキーさん。
四人でワイワイやっていると、バッドベアーを縛り上げたリュウコちゃんが近くまで戻ってきた。
拘束されたクマは声も出さずに大人しくしている。
こんなに大人しいなら自由にしてやるかな……と、一瞬思ったけど、いや待て。
解くのはいつでも出来る。
ここは用心してこのままにしておいた方が良いだろう。
解いた途端逃げ出すかもしれないもの。
『おぅ、来たかリュウコ。ご苦労さん。で? クマに話を聞くんだっけか。今は大人しくしてるけど……なんか反抗的なツラだな。リュウコ! とりあえず、もうちっと強く縛っとけ、』
コクンと今度は頷いたのを視た。
社長の命に赤い竜はグルリともうひと巻きすると、中のクマが『グエェ』と苦し気な声を上げた。
や、ちょっと、かわいそうじゃない?
気持ち緩めてあげたらどうかな……なんて心配していたら、クマは口をクワッと開き、スゥゥゥゥッと大きく息を吸った。
え、縫いぐるみなのに深呼吸? と首を傾げた時だった。
クマの霊体は吸った空気の分なのか、パンパンに膨らみ始め、締め上げられた霊体の所々は、はみ出ちゃってムチムチだ。
んーアレに似てるかな。
紐の巻きついた高級なハム、お歳暮やお中元でたまにいただくアレ。
『さっきからクマは何をしてるんだ……? 縫いぐるみが深呼吸もないだろう、』
ジャッキーさんが訝し気に呟いた。
その一言で社長も嵐さんも僕も、バッドベアーを眺めていたのだが……それはあまりにも突然だった。
スゥゥゥゥゥ……ゥゥゥゥ……ゥゥ……ゥゥ……
スポンッ! スポンッ! スポンッ! スポンッ! スポンッ!
スポンッ! スポンッ! スポンッ! スポンッ! スポンッ!
プシューーーーーーーーーーーーッ!!
クマの霊体が限界までムチムチのパンパンになった時、何かが抜けるような音が連発し、その次の瞬間、一気に空気の抜ける音がした。
何かが地面に落ちている……あ、あれは……!
おなかとオシリに合計20本、僕が撃ち込んだ霊矢だっ!
クマの狙いは霊矢だったの!?
息を大きく吸い込んで、霊体を膨らませるコトで、手を使わずして霊矢を抜いたんだ!
霊矢が抜けたと同時、リュウコちゃんに締められていたバッドベアーの霊体はみるみる縮み、歪んだ螺旋を描きつつ、速度を持って宙を飛んだ。
イメージは膨らみきった風船を、口を縛らず手をはなしたのによく似てる。
『嘘だろッ!』
社長もジャッキーさんも一歩前に踏み出すも、空気漏れの風船みたいなバッドベアーは、動きがランダムすぎて追う事が出来ないでいた。
このまま逃げられてしまうのか……!
せっかく社長とジャッキーさんが捕まえてくれたのに……!
だけど、あんな動きのバッドベアー、キャラ二人でさえ追えないのに、僕や嵐さんではもっと無理だ。
悔しさと焦りがないまぜに、右往左往に飛び回るバッドベアーを目で追う事しか出来ない、クソ……!
クマは巨大な霊体と引き換えに、逃亡を成功させ…………ん?
ザザーーーーーーーーンッ!!
木々の高い所から、白い塊がクマを目掛けて飛んできた。
空中で、白と黒が交差するその刹那。
黒を上回る速度でもって白が黒を捕まえた。
クルリン……シュタッ!!
空から捻り半回転、華麗な動作で地に降り立ったのは……大福だ!
僕の愛しいお姫様は、大福くらいに縮んでしまったバッドベアーの首根っこを咥えたまま、トテトテトテと僕達の前までやってきて……
可愛いお口をパカッと開けて、ペッとクマを地に落とし、ちっちゃなおててでタシッと押さえつけだのだ。
『うなぁん』
「だ、大福さん、このクマ、僕にくれるの?」
ラブリーすぎる猫又にそう聞くと、
『うな』
と一声返してくれた。
そう、すこぶる得意そうな顔をして。
数瞬の沈黙後、
「「『『チョーーーーーーお手柄ぁっ!!』』」」
四人の声が林中にこだました。
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