第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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◆ ____コンナコトヲしてタダデすムとオモウナヨ…… ____オマエらゼンイン呪ッテヤる…… ____オマエモ、オマエモ、オマエモ、オマエモ…… ____モチロン……ネコも……へびモダ…… ____ゼッタイニユルサナイ……! 恨み辛みを固めたような。 凄みの声が呪いの言葉を吐き出した。 怒りが霊体(からだ)を震わせせるのか、その振動は僕の身体をも微かに揺らす。 『コウカイシテモ、モウオソイ……テオクレダ、呪イハハシリダシタ………………ウガァァァアアアアアアアアアアッッ!!』 クワッと大きなお口を開けて、咆哮するはバッドベアー(やんちゃなくま)……なのだが、 『るっせーよっ!!(ベシッ!!)』 あまりの大声にキレた社長が、クマのオデコに強烈なデコピンをお見舞いした。 『イタッ! ナニすんだこのツルツル野郎! オレがフサフサすぎて嫉妬してるんだろう! ココロが醜いな、育毛剤かぶって出直して来い!』 フサフサすぎてって……まぁねぇ、縫いぐるみだからねぇ。 巨大クマからチビクマに変化して(コッチが本来の姿か?)、ココア色の霊体(からだ)は全身フワフワのモコモコだ。 しかし……視た目だけじゃない、めっちゃキャラが変わった。 巨大な時は『ウガァァ』しか言わなかったのに、今は近所のオジサンみたいだ。 贔屓の野球チームが負けたみたいな不機嫌さで悪態をついてる。 そのチビクマを拘束すべく、霊体に干渉可能な僕が抱えているのだが……まぁ、さっきからこの調子でちっとも大人しくしてくれない。 手足をバタバタさせて隙あらば逃げ出す気満々だ。 『あぁ? 育毛剤なんていらねぇよ! 俺はハゲじゃねぇ! つーかむしろハゲてぇ! カッコいいじゃねぇか! これはな、毎日剃ってんだよっ! この頭はあえてだよっ!』 って、えぇ!? そうだったの!? 僕はてっきり毛根が機能停止してるもんだと思ってたのに! 違ったんだ……し……知らなかったよ……! 『フン! なんだっていいわ、小僧の頭なんぞに興味はないからなっ! それよりオマエ! オマエだよ、オマエ! 手を放せ! オレを自由にしろっ! 言う事聞かないと呪うぞ!』 丸いお顔を上に向け、精一杯凄んでみせるのだが、いや放す訳ないでしょ。 逃げないように抱えてるんだから。 僕は口の悪いチビクマを抱いたまま、顔だけを下に向ける……と、見上げるクマと目が合った……うっ……なんだよ、可愛いな。 「や、ごめんね。それは出来ない。だって放したら逃げるもの。あのね、僕らはあなたと話がしたいの。斎藤様に十年も憑りつくなんていけない事だ。……でも、僕はあなただけが悪いとは思ってない。突然、斎藤様にさらわれて、おなかを裂かれて呪いの道具にされたんだ。怨みたくもなると思う、」 『……………………フン』 僕がそう言うと、チビクマは暴れるのをやめた。 黙ったまま、なんとも言えない空気を出している。 しばらくそうして、なにかを考えているようで、その間、僕や(らん)さんはもちろんだけど、社長もジャッキーさんも黙ってた。 チビクマが何か言いだすのを待っていたんだ。 そして、 『……………………十年か、そうだな。あっという間に時が流れた。結局みどりはオレを探しにこなかった。オレは……置いて行かれたあの日から、雨の日も風の日も雪の日も、ずっとココでひとりぼっちだ』 チビクマは、はぁぁと溜息をついた。
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