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『……………………』
チビクマはため息をついたあと、また黙り込んでしまった。
僕の腕に抱かれたまま、俯いて、足をプラプラさせて、小さな背中を猫みたいに丸めてる。
”ずっとひとりぼっち”……か。
巨大な時はあんなにも怖かったのに……今は見る影もない。
十年長いな……十年前なら僕はハタチで大学に通ってた。
勉強はそこそこ、お花屋さんでバイトして、卒業後は通信会社に就職した。
初めての社会人で必死になって仕事を覚えたのに、会社はあっけなく倒産し、なんやかんやで今はまさかの霊媒師だ。
いろんな事があった……十年って本当に長いよ。
その十年、雨の日も風の日も雪の日も、たった一体でココにいたって……想像すると胸がズキンと痛くなる。
どんなに不安だっただろう、どんなにお姉さまの元に帰りたかったろう。
そんな事を考えていたら、”ボッチ繋がり”だろうか?
不意に水渦さんの顔が浮かんだ。
アパートでひとり暮らし。
ご家族は血の繋がらないお姉さまがいるけれど、今は疎遠になっている。
友達も家族もいない、食事はいつもひとりだと言っていた。
淋しくないのかな、この現場が終わったら誘ってみようかな……一緒にゴハン食べにいきませんか? って。
僕なんかと食べたってツマラナイだろうけど、それでも……たまにはね。
どのくらい黙っていただろう。
みんなの沈黙が続く中、大福だけは元気いっぱいだった。
天使すぎる猫又は、鎌首もたげて優雅に揺れるリュウコちゃんに飛び乗ると、あろうことか硬い鱗で激しく爪を研ぎ始めた。
バリバリバリバリ!
けっこうな音をさせちゃって、リュウコちゃんは痛くないのかなって、心配になったけど、赤い竜は気持ち良さげに目を閉じているので問題はなさそうだ。
『オマエらは……みどりに雇われた祓い屋なんだろう? アレが電話をしてるのを聞いたんだ。だから知ってる、』
突然だ。
チビクマは前置きもなくそう言った。
僕達の事、知ってたんだな。
だからいきなり攻撃してきたのか。
捕まらないために、滅されないために。
『…………みどりは嫌いだ。アイツさえいなければ、オレはるりと一緒にいれたのに』
斎藤様がいなければ、というのは賛同出来ないけど、チビクマがお姉さまと一緒にいられないのは……斎藤様が原因だ。
『るりは優しいよ。みどりは一度も探しに来なかったのに、るりは何度もココに来た。オレの名前を呼んで、たった一人で探してくれたんだ。もちろんオレは叫んだよ。ここだ! オレはここにいる! 連れて帰ってくれ! るりの傍にいたい! って。……でも……るりにオレの声は聞こえないから……見つけてもらう事は出来なくてな』
僕に抱かれたチビクマは俯いて、だから顔は視えないけれど。
だけどわかるよ、きっと今……このクマは泣いている。
『みどりなんて大っ嫌いだ……いきなり部屋に入ってきて、るりの髪を引っ張ったんだ。それでオレをさらった。林の中に連れられて、腹を裂かれて、るりの髪と爪を入れられた。すごく痛かったよ、すごくな』
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