第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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『……………………』 チビクマはため息をついたあと、また黙り込んでしまった。 僕の腕に抱かれたまま、俯いて、足をプラプラさせて、小さな背中を猫みたいに丸めてる。 ”ずっとひとりぼっち”……か。 巨大な時はあんなにも怖かったのに……今は見る影もない。 十年長いな……十年前なら僕はハタチで大学に通ってた。 勉強はそこそこ、お花屋さんでバイトして、卒業後は通信会社に就職した。 初めての社会人で必死になって仕事を覚えたのに、会社はあっけなく倒産し、なんやかんやで今はまさかの霊媒師だ。 いろんな事があった……十年って本当に長いよ。 その十年、雨の日も風の日も雪の日も、たった一体でココにいたって……想像すると胸がズキンと痛くなる。 どんなに不安だっただろう、どんなにお姉さまの元に帰りたかったろう。 そんな事を考えていたら、”ボッチ繋がり”だろうか? 不意に水渦(みうず)さんの顔が浮かんだ。 アパートでひとり暮らし。 ご家族は血の繋がらないお姉さまがいるけれど、今は疎遠になっている。 友達も家族もいない、食事はいつもひとりだと言っていた。 淋しくないのかな、この現場が終わったら誘ってみようかな……一緒にゴハン食べにいきませんか? って。 僕なんかと食べたってツマラナイだろうけど、それでも……たまにはね。 どのくらい黙っていただろう。 みんなの沈黙が続く中、大福だけは元気いっぱいだった。 天使すぎる猫又は、鎌首もたげて優雅に揺れるリュウコちゃんに飛び乗ると、あろうことか硬い鱗で激しく爪を研ぎ始めた。 バリバリバリバリ! けっこうな音をさせちゃって、リュウコちゃんは痛くないのかなって、心配になったけど、赤い竜は気持ち良さげに目を閉じているので問題はなさそうだ。 『オマエらは……みどりに雇われた祓い屋なんだろう? アレが電話をしてるのを聞いたんだ。だから知ってる、』 突然だ。 チビクマは前置きもなくそう言った。 僕達の事、知ってたんだな。 だからいきなり攻撃してきたのか。 捕まらないために、滅されないために。 『…………みどりは嫌いだ。アイツさえいなければ、オレはるりと一緒にいれたのに』 斎藤様がいなければ、というのは賛同出来ないけど、チビクマがお姉さまと一緒にいられないのは……斎藤様が原因だ。 『るりは優しいよ。みどりは一度も探しに来なかったのに、るりは何度もココに来た。オレの名前を呼んで、たった一人で探してくれたんだ。もちろんオレは叫んだよ。ここだ! オレはここにいる! 連れて帰ってくれ! るりの傍にいたい! って。……でも……るりにオレの声は聞こえないから……見つけてもらう事は出来なくてな』 僕に抱かれたチビクマは俯いて、だから顔は視えないけれど。 だけどわかるよ、きっと今……このクマは泣いている。 『みどりなんて大っ嫌いだ……いきなり部屋に入ってきて、るりの髪を引っ張ったんだ。それでオレをさらった。林の中に連れられて、腹を裂かれて、るりの髪と爪を入れられた。すごく痛かったよ、すごくな』
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