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重たい沈黙。
誰も何も言えないでいた。
なにを言っても薄っぺらくなりそうで言葉が出ない。
僕はヒリつく静かさの中、前に聞いた水渦さんの言葉を思い出していた。
____綺麗事ですね、反吐がでます、
____じゃあ岡村さん、こうしましょう、
____私の過去とあなたの過去を取り替えるんです、
____人生全部取り替えて、
____それでも綺麗事が言えるなら、
____私は岡村さんに従います、
____誰も憎まず、清く正しく生きましょう、
なぜ人を傷つけるのか、なぜそこまで人を憎むのか、そう聞いた時の彼女の答えがこれだった。
答えになんかなっていない。
過去を取り換えるなんて不可能だもの。
辛い思いは味わった本人にしかわからない。
他人は想像するしかない。
想像して、わかろうとして、どこまで理解出来るのか、どこまで傷に寄り添えるのか、そこに正確な答えはない。
それはとても曖昧で、下手をすれば寄り添う側の自己満足になる、かえって傷付ける事になる。
そんなつもりじゃなくっても、「わかったような口をきくな」となってしまう。
チビクマは言った。
”オレはちっとも悪くない”と。
ある意味正解だ。
さらわれて腹を裂かれて使い捨ての道具にされた。
大好きなお姉さまを取り上げられた。
雨風に晒されて十年放置された。
キレイだった本体は視るも無残な状態だ。
”物”に宿った魂のチビクマは、いわば霊体に等しい。
チビクマの話によれば、クマの声が聞こえないお姉さまに霊感はないのだろう。
”るりに抱っこされたい” そんな切望は霊体のままでは叶わない。
だからと言って……あんなにドロドロになった本体では、お姉さまも驚くだろうし、チビクマも嫌だと思う。
切ないな、今のチビクマに斎藤様を呪わないでくれ、許してやってくれと頼んだところで響くはずがない。
一体なんて言えばいいのかな。
男四人はうまい言葉が見つからず、ただただ黙り込んでいた。
先に言葉を発したのはチビクマだった。
『もういいや……疲れた、……消せよ、オマエらはその為に来たんだろう? どっちにしたってオレはそろそろ限界だ。これ以上抗う霊力は残ってない。るりの髪が底をつく。髪がなくなればオレはもう、今までみたいに動けなくなる。るりは遠くに行ってしまった。探しに行くにもどこにいるかわからない。そもそも、オレが動ける範囲はこの林とみどりのいるところだけ。手詰まりだ。なぁ、だから消してくれよ。楽にしてくれ』
消しくれって、それでいいの?
あまりに悲しい最期になるよ。
それとひとつ、るりさんの髪が底をつく……?
それってどういう……
「ねぇ、自棄にならないで。お願い、もっと話をしよう。それから髪が底をつくってどういう意味なの? そろそろ限界って……?」
思わず聞いてしまった。
疲労のチビクマは自分を滅しろと言う。
正直滅する事は簡単だ。
ここには手練れの霊媒師が三人と(うち二人は式神だけど)、見習い霊媒師がいるのだから。
滅してしまえば斎藤様は解放される。
だけどそれは解決ではない。
気持ちを無視して切り捨てたくはない。
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