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キーマンさんのセーフティドライブで斎藤様のオウチまで戻った僕達は、大きな門扉の前で再びインターホンを鳴らした。
時刻は夕方。
お夕飯の支度だろうか。
お魚の焼ける香ばしい匂いが、ほのかに外まで漂っている。
あぁ、おいしそうな匂いだなぁ。
実家でもこのくらいの時間には、母親が台所に立っていたっけ。
懐かしいなぁ。
少し待って、玄関の扉がガチャリと開いた。
顔を出したのはエプロン姿の斎藤様だ。
「はぁい、あ……鍵さん……みなさんも……どうぞ入っていらして、」
手招く斎藤様は夕焼けに染められて、まるで薄い炎に包まれているように見えた。
笑顔を向けてくれるけど、その表情は長年の疲れが蓄積されている。
ああ、どうか今日で呪いから解放されますように。
斎藤様も、チビクマも、自由になれますように。
心の中で祈りながらオウチの中におじゃました。
キーマンさんを先頭に、嵐さん、僕の順で、霊体のチビクマは僕の腕に抱かれながら、通されたのはまたも応接室だった。
”おかけになって”と斎藤様は言うけれど、今の僕達は泥だらけ。
革張りのソファは白くてキレイで、座ったら汚してしまうのではと躊躇した。
斎藤様が人数分のお茶を持って再び部屋に入ってきた時、立ったままの僕達を見て「お気になさらずお掛けになってください」と言ってくれ、おずおずとソファに腰掛けた。
「……それで……見つかったのでしょうか?」
心なしか声が震えている。
チビクマは僕の腕の中でジッと斎藤様を見つめていた。
答えたのはキーマンさんだった。
「オフコース。フォレストの中のビッグツリーのアンダーだ。泥と雨水でぐちゃぐちゃな状態でベアーはいた」
そう聞いた途端、斎藤様の、ただでさえ悪い顔色がさらに悪くなった。
膝に置く手がガタガタと震えだす。
「……そ、そうですか……それでみなさんも泥だらけなんですね……た、大変でしたよね、ありがとうございます、…………」
「ノープロブレムだ、みどり。これが俺達霊媒師のジョブだからな。それで、セカンドリクエストである、今のベアーの状況だが、」
キーマンさんの説明に、僕と嵐さんは黙って横で聞いていた。
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