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同時、膝に座るチビクマの『……フン』という、ひねた声が聞こえてきた。
僕はそれには答えず、無言でその頭を撫でつけてやると『バカ、やめろ』と言いながらも手を払おうとはしない。
悪態をついてるけれど、おそらくチビクマは言いたい事がたくさんあって、複雑すぎる心境で、それでいて緊張もしてるんだ。
だからさらにナデナデしてやった、ちょっとでも楽になるように、落ち着くようにと。
斎藤様はそんな僕に気付いたようで、キーマンさんの話を聞きながらチラチラとこちらを見る。
最初は戸惑い遠慮がちに、だが途中から驚愕の色をあらわにさせた。
「あのっ! あ……鍵さん、ごめんなさい。お話の途中なのに……その……岡村さん? さっきから何をしてるんですか? ……手の動きがおかしいというか……そこに何もいない……はずですよね? それなのに……」
あ……しまった……バレたっぽい。
斎藤様にチビクマが視えないからって油断した。
どうしよ……言うべきか?
ここにチビクマがいるって事を。
いろいろあったけど、最終的に僕達霊媒師とチビクマは信頼関係が結べたと思う。
だけど斎藤様にとっては、今だって恐ろしい”カーズベアー”のままだ。
驚かせないように、怖がらせないように、まずは順を追って、キーマンさんから十分な説明をした後で、本当はココいいるんですよと伝えるつもりだった。
でもね、めっちゃ見てる。
斎藤様の目は激しく語っていた。
い、いるよね? なんかいるよね? それってまさか”カーズベアー”なの……? そ、そーなんでしょ!? 的な圧をガンガン感じるんだ……コレ、ごまかしきれないかも。
スリーマンセルのリーダーと、オレンジ髪の優しい先輩を順に見た。
二人とも「もー」みたいな顔で僕を見て、それでもウンと頷いてくれた。
腕の中のチビクマを覗き込めば『マヌケなヤツ』とぼやいてる。
ははは、ごめん。
本当にそう思うよ。
ダメ、隠しきれないや。
でもさ、遅かれ早かれ本当の事を話すんだ。
「斎藤様、」
僕は依頼者の名前を呼んだ。
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