2366人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
スッと深く一呼吸。
慎重に話す必要がある。
憑りついたチビクマと憑りつかれた斎藤様。
被害者と加害者の対面だが、そのどちらの立場でもある両者なのだ。
おそらく互いにそれは分かっているはず。
だからこそ落としどころはあるのだが、だからこそ拗れる可能性もある。
「……斎藤様、クマの話をする前に、最初に申し上げたい事があります。僕達は林でボロボロになったクマを視つけました。そこでいろいろあったけど……たくさんの話をしたんです。この十年、どういう気持ちで斎藤様に憑りついていたのか、お姉さまと離れてどれだけ淋しかったか、そういった事ぜんぶです。それによって呪われた側の斎藤様の気持ち、呪った側のクマの気持ちの両方を知る事が出来ました。その上で僕達が願う事、それは ”長かった呪いからの解放”です。斎藤様はもちろんですが……クマも一緒にです、」
膝の上のチビクマの、小さな手を握りながら僕は斎藤様を真っすぐに見た。
その斎藤様は、チラリと目線を下にさげ、そしてすぐに僕を見て小さく頷いた。
ここまでは……いいかな。
「斎藤様のおっしゃる通り、クマは今ココにいます。彼は僕の膝に座わり、斎藤様を視ています。……あ、大丈夫、怖がらないでください。クマはもう悪い事はしませんから」
”ココにいる”、と言った瞬間、斎藤様は身を固くした。
揃えた膝が震え、涙目になっている。
そんな斎藤様を安心させる為にもチビクマに、
「そうだよね? 悪いコトしないよね?」
と声をかけるも、
『フン、それはどうかなっ!』
そう悪態をつき、僕はギョッとした。
斎藤様にチビクマの姿は視えないけど、声は聞こえるんじゃなかった!?
今のを聞いたら拗れちゃうよ! と心配したのに、
『ダイジョブだ、みどりには聞こえてない。オレの声は聞かせようとしなければ届かない』
ボタンの目で表情は薄いけど、今このクマは絶対ニヤリとしてる。
そんな空気で視上げてる……って、僕をからかったんだね?
チビクマめ……まんまと騙された腹いせに丸い脇腹をコチョコチョすれば、
『ぬははははは! 悪かった! 悪かったから!』
と身を捩り、ゴメンゴメンと言ってくれた。
うん。
チビクマ、大丈夫そうだな。
冗談が言える程度に落ち着いている。
お願いだからこのままでいてね。
僕はキミに乱暴な事をしたくないんだ。
最初のコメントを投稿しよう!