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あえて抑揚を抑え、僕はチビクマの気持ちとこの十年の話を斎藤様にした。
最初はただの縫いぐるみだったけど、年月をかけ、チビクマを可愛がるお姉さまの愛情によって魂が生まれた事。
その魂は、確かに縫いぐるみの中で生きていた事。
お姉さまが大好きで、お姉さまとの暮らしが本当に幸せだった事。
たまに遊びにくる斎藤様がお姉さまの妹だと知っていた事。
そして大好きなお姉さまの妹なら、きっと斎藤様も優しい人だと信じていた事。
そう、信じていたんだ。
なのに斎藤様がある日突然変わってしまい、お姉さまに乱暴をした挙句、自分をさらってしまった事。
車に乗せられ林に連れられ腹を裂かれた時は、絶叫するほど痛かった事。
その痛みは薄れてきてもなくなりはせず、この十年ずっと苦しかった事。
修復もしてもらえず林の中に置いて行かれ、どれだけ不安に思ったか、『なんで……? どうして……?』そればかりを呟いていた事。
その嘆きに誰も答えてくれる人がいなかった事。
良い匂いの花が飾られる、清潔な部屋で暮らしていたのに、雨風に晒され、泥にまみれ、日々汚れていく自分の縫いぐるみを視ては『るりの部屋を汚してしまう……もう帰れない』と絶望していた事。
膨れる恨み辛み、悲しみ悔しさ、治まらない腹の痛み。
お姉さまの髪によって得た霊力。
それらが合わさり、怨念は至極当然、斎藤様に向けられた。
斎藤様は僕の話を泣きながら聞いていた。
ごめんなさい、ごめんなさい、と何度も何度も呟きながら、丸めた肩を震わせながら。
チビクマは押し黙り、最愛の人の妹を凝視していたのだが、僕の話の切れ目にこう入ってきた。
『今更泣いたって遅いよ。オレは十年も苦しんだんだ。毎日腹が痛くて、るりに会いたくて……みどりばっかり辛いと思うなよ、オレだって辛かった、オレだって泣いていたさ。……るりは優しいよ、オレを何度も探しに来てくれた。だけどみどりは? 怖くて来れなかった? そんなの知らない。来れば……許してやったのに。結局一回も来なかった。……なんでだよ、オレの声……聞かそうと思えばみどりには届くのに、るりには届かない。みどりにしか届かないから、るりに伝えてほしかったのに。オレの居場所、オレの気持ち、そういうの伝えてほしかったのに』
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