第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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あえて抑揚を抑え、僕はチビクマの気持ちとこの十年の話を斎藤様にした。 最初はただの縫いぐるみだったけど、年月をかけ、チビクマを可愛がるお姉さまの愛情によって魂が生まれた事。 その魂は、確かに縫いぐるみの中で生きていた(・・・・・)事。 お姉さまが大好きで、お姉さまとの暮らしが本当に幸せだった事。 たまに遊びにくる斎藤様がお姉さまの妹だと知っていた事。 そして大好きなお姉さまの妹なら、きっと斎藤様も優しい人だと信じていた事。 そう、信じていたんだ。 なのに斎藤様がある日突然変わってしまい、お姉さまに乱暴をした挙句、自分をさらってしまった事。 車に乗せられ林に連れられ腹を裂かれた時は、絶叫するほど痛かった事。 その痛みは薄れてきてもなくなりはせず、この十年ずっと苦しかった事。 修復もしてもらえず林の中に置いて行かれ、どれだけ不安に思ったか、『なんで……? どうして……?』そればかりを呟いていた事。 その嘆きに誰も答えてくれる人がいなかった事。 良い匂いの花が飾られる、清潔な部屋で暮らしていたのに、雨風に晒され、泥にまみれ、日々汚れていく自分の縫いぐるみ(からだ)を視ては『るりの部屋を汚してしまう……もう帰れない』と絶望していた事。 膨れる恨み辛み、悲しみ悔しさ、治まらない腹の痛み。 お姉さまの髪によって得た霊力(ちから)。 それらが合わさり、怨念は至極当然、斎藤様に向けられた。 斎藤様は僕の話を泣きながら聞いていた。 ごめんなさい、ごめんなさい、と何度も何度も呟きながら、丸めた肩を震わせながら。 チビクマは押し黙り、最愛の人の妹を凝視していたのだが、僕の話の切れ目にこう入ってきた。 『今更泣いたって遅いよ。オレは十年も苦しんだんだ。毎日腹が痛くて、るりに会いたくて……みどりばっかり辛いと思うなよ、オレだって辛かった、オレだって泣いていたさ。……るりは優しいよ、オレを何度も探しに来てくれた。だけどみどりは? 怖くて来れなかった? そんなの知らない。来れば……許してやったのに。結局一回も来なかった。……なんでだよ、オレの声……聞かそうと思えばみどりには届くのに、るりには届かない。みどりにしか届かないから、るりに伝えてほしかったのに。オレの居場所、オレの気持ち、そういうの伝えてほしかったのに』
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