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吐き出されるクマの苦悩。
僕の中で緊張が走る。
チビクマ、大丈夫かな?
傷を言葉にする事は大事。
だけどその分、辛さが蘇る、恨みと怨念も蘇る。
チビクマ……抑えてね。
お願いだから、暴れたりしないでね。
キミが斎藤様に危害を加えるようなら、僕はキミを止めなくてはならない。
ああ、だけど勘違いしないでほしい。
キミが縫いぐるみだから、人じゃないから、だから下に視てるとかじゃない。
もしも斎藤様に霊力があったとして、斎藤様がキミに危害を加えるようなら、僕は斎藤様を止めるだろう。
縫いぐるみとか、人だとか。
入れ物は関係ないんだ。
器の中は同じ”魂”なのだから。
「うぅ……うっ……うぅ……ご、ごめん……なさい……ごめんなさい……わ、私がみんな悪いの……む、昔の話に嫉妬して……るりは何も悪くないのに……ほ、本当は……それがわかってたから……強く文句も言えなくて……腹いせに……呪いを……あなたに魂があるなんて知らなくて……おなかを裂いて……痛い思いをさせるなんて……わからなくて……」
斎藤様もボロボロだった。
見た目ではない、心がだ。
チビクマに魂があると知っていたら、腹を裂くなんて、呪いの道具にしようだなんて思わなかっただろう。
流す涙は悔いる念でいっぱいで、そこに嘘はみられない。
それはチビクマにも伝わっているはずだ。
はずなんだけど、それがかえって彼の怨念を刺激した。
『……知らなかった……? ふざけるな……知らなければ許されるのか? 知らなければ腹を裂いてもいいのか? 知らなければオレからるりを取り上げてもいいのか? ふざけるなッッ!! オ……オレがどんなに苦しんだか……! なぁ、わかるか? 十年傷が痛かったんだ! このマヌケな霊媒師が治してくれるまでずっとだよ! なのに「知りませんでした、ごめんなさい」が通じると思ってるのか! そんなの許すバカがどこにいる! いるなら連れて来いよ! 本当にいるなら許してやるよ!』
興奮し飛び掛かろうとするチビクマを咄嗟に掴む。
ダメ! 落ち着いて! わかるよ、気持ちはわかるけど!
キミを縛りたくない、キミに乱暴したくない、お願いだから!
チビクマの暴れっぷりはハンパなかった。
僕の霊力で満たしたクマは、それを使いこなしつつあるようだ。
チビクマを必死に抱え、「駄目! 待って! 落ち着いて!」と叫ぶ僕に斎藤様が怯えてる。
だけど逃げようとはしなくって、向かいのソファに座ったまま、泣きながら”ごめんなさい”と繰り返していた。
覚悟をしてるんだ……きっと、すごく悔いていて、チビクマの声は聞こえなくても、僕の様子で察したんだ。
クマは自分を襲おうとしてるって。
それでも動かず、受け入れようとしている。
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