第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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吐き出されるクマの苦悩。 僕の中で緊張が走る。 チビクマ、大丈夫かな? 傷を言葉にする事は大事。 だけどその分、辛さが蘇る、恨みと怨念も蘇る。 チビクマ……抑えてね。 お願いだから、暴れたりしないでね。 キミが斎藤様に危害を加えるようなら、僕はキミを止めなくてはならない。 ああ、だけど勘違いしないでほしい。 キミが縫いぐるみだから、人じゃないから、だから下に視てるとかじゃない。 もしも斎藤様に霊力(ちから)があったとして、斎藤様がキミに危害を加えるようなら、僕は斎藤様を止めるだろう。 縫いぐるみとか、人だとか。 入れ物は関係ないんだ。 器の中は同じ”魂”なのだから。 「うぅ……うっ……うぅ……ご、ごめん……なさい……ごめんなさい……わ、私がみんな悪いの……む、昔の話に嫉妬して……るりは何も悪くないのに……ほ、本当は……それがわかってたから……強く文句も言えなくて……腹いせに……呪いを……あなたに魂があるなんて知らなくて……おなかを裂いて……痛い思いをさせるなんて……わからなくて……」 斎藤様もボロボロだった。 見た目ではない、心がだ。 チビクマに魂があると知っていたら、腹を裂くなんて、呪いの道具にしようだなんて思わなかっただろう。 流す涙は悔いる念でいっぱいで、そこに嘘はみられない。 それはチビクマにも伝わっているはずだ。 はずなんだけど、それがかえって彼の怨念を刺激した。 『……知らなかった……? ふざけるな……知らなければ許されるのか? 知らなければ腹を裂いてもいいのか? 知らなければオレからるりを取り上げてもいいのか? ふざけるなッッ!! オ……オレがどんなに苦しんだか……! なぁ、わかるか? 十年傷が痛かったんだ! このマヌケな霊媒師が治してくれるまでずっとだよ! なのに「知りませんでした、ごめんなさい」が通じると思ってるのか! そんなの許すバカがどこにいる! いるなら連れて来いよ! 本当にいるなら許してやるよ!』 興奮し飛び掛かろうとするチビクマを咄嗟に掴む。 ダメ! 落ち着いて! わかるよ、気持ちはわかるけど! キミを縛りたくない、キミに乱暴したくない、お願いだから! チビクマの暴れっぷりはハンパなかった。 僕の霊力(ちから)で満たしたクマは、それを使いこなしつつあるようだ。 チビクマを必死に抱え、「駄目! 待って! 落ち着いて!」と叫ぶ僕に斎藤様が怯えてる。 だけど逃げようとはしなくって、向かいのソファに座ったまま、泣きながら”ごめんなさい”と繰り返していた。 覚悟をしてるんだ……きっと、すごく悔いていて、チビクマの声は聞こえなくても、僕の様子で察したんだ。 クマは自分を襲おうとしてるって。 それでも動かず、受け入れようとしている。
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