第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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『リーダーって、あの変なしゃべり方のヤツか。ア、アイツ、変だよな! だって……オレの縫いぐるみ(からだ)を平気で持ってたよ。そのせいで服が泥だらけになったのに、すごい楽しそうに笑ってた。あと……あとさ、アイツ、オレをキレイにするって……なぁ、それ本当に本当かな、』 探るように、ちょっとだけオドオドしながらチビクマが聞いた。 不安なんだろうな、人の優しさと人の恐ろしさの両方を知っているからこそ、手放しに喜べないのだろう。 安心させてやりたいな、キーマンさんはウソをつかない。 彼は幼い頃、近所の子供達と容姿が少し異なるからといじめを受けていた。 だから傷付けられたり、裏切られたりする悲しみを、誰よりも知ってる人なんだ。 「本当だよ。キーマンさんは器用なんだ……てか、器用の域を超えている。それにね、チビクマみたいな可愛い子が大好きだし。期待していいと思うよ。完全復活出来るから」 僕はキーマンさんの作ったミリタリープリンセスシリーズを思い出していた。 あの完成度は神の領域。 下手すりゃチビクマ、オリジナルをこえたハンパない仕上がりになっちゃうよ。 お姉さまが見ても違和感がないように、今のチビクマの容姿を事細かに伝えなくっちゃ。 『…………そうか、なら期待しよう。キレイになったら……会えるんだな。オレは……るりが大好きだ。いつも笑っていつも優しい。だけどたまに泣くんだよ。オレを抱きしめて声を殺してな。だから傍にいたい。可愛がってもらいたいだけじゃないんだ。るりが泣いてたら慰めてやりたいよ」 「うん」 『…………そうだ、オレはずっと諦めていた。るりに逢いたいけど、そんな事は夢のまた夢だと。だけど……オマエ達が来た。オマエ達はオレをキレイにしてるりに逢わせてくれると言う。オレにとって救世主だよ。……その救世主に会わせてくれたのは…………みどりなんだよな、……フン、もういいや、これでチャラだ。るりと逢える未来があるのなら、オレは前を向く』 「うん」 チビクマはポムッと僕の膝から降りると、テテテと斎藤様の近くに寄った。 そしてしばらく疲れた顔を覗き込み、やがて僕に振り返りこう言った。 『オマエ……いや、岡村。みどりに伝えてくれ。長い付き合いだったが(・・・・・・・・・・)これでサヨナラだって』 あ……初めて名前で呼んでくれた。 嬉しいなぁ、名前で呼んでくれた事も、前を向くと言ってくれた事も。 「うん、わかった。伝えるよ」 ありがとう、そう言ったチビクマは、小さな縫いぐるみ(からだ)で胸を張り、顔を上げた。 あのボタンの可愛い目は、きっと幸せな未来を視ているのだろうな。
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