第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

122/122
前へ
/2550ページ
次へ
大福ー! とか、うなー! とか、るりー! とか、ジェーン! とか、キーちゃーん、とかとか。 疲れているはずなのに、車の中は大騒ぎだった。 みんな笑ってなんだかすごく楽しくて、騒ぎすぎたらおなかが減って、途中、パーキングエリアで斎藤様のお弁当をいただいた。 お弁当が入っていた紙袋には、小さな小瓶もまぎれてて、それには【ルミちゃんへ】の付箋紙が貼ってあり……中身は甘いハチミツだった。 そうだ……キーマンさんが言ってたな。 事情を話してくれる途中、泣いてしまった斎藤様に、ハチミツの小瓶ミニチュアを渡しながら『クマと会ったら、これで乾杯すればいい』って。 ルミちゃんへの“ハチミツ”は、そういった意味合いがあるのだろう。 そのことを伝えると、 『フ、フン……みどりのヤツ、こんなコトしたって……バカだな。オレは霊体だから食べられないよ、……でもまぁ……うん、』 クマは慌てていた。 思いがけないプレゼントが嬉しいんだろうな。 だけどそれを必死に隠すルミちゃんに、僕達三人の霊媒師はニヤリと笑い、声を揃えてこう言った。 「「「ハチミツ、どうぞ召し上がれっ!」」」 + 「イエァッ!」 数瞬後、ルミちゃんの口の中に広がったであろう、甘いハチミツの味。 丸い手で丸いほっぺをおさえたまま固まっている。 そして、 『な……なんだこれ、口の中がとろけそうだ……やさしい……これがハチミツ……? ……フ、フン……こんなコトしたって……したって……ああ、こんなの……初めてだ……おいしいんだな……クソ、ズルいぞ……ああ……みどり……ごめん……ありがとう、』 あ……解けた。 十年も続いた呪いが、今をもって完全に終わった。 斎藤様もルミちゃんも、本当に自由になった瞬間だ。 ____誰が誰を許す? ____誰が誰に許される? 答えは簡単。 互いに互いを許したんだ。 縛るものはなくなった。 そう、だから後は幸せしかないよ。 お弁当を食べ終えた僕達は、東京に向かい再び走り出した。 ふと気が付けば、いつの間にか猫と熊が眠りについている。 寄り添って丸くなり、重なる寝息がなんとも可愛らしい。 僕達男三人は、眠る二体を起こさぬように、静かに黙って窓の向こうを眺めていた。 それはとても優しくて、心地の良い沈黙だった。 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)__了 ★東京に戻った後、みんなでルミをキレイにするお話が、別作『霊媒師こぼれ話』の『第七章 霊媒師こぼれ話_レッツハッピーバスタイム』に続いています(*´ω`*) https://estar.jp/novels/25916752/viewer?page=151&preview=1 ※こぼれ話に飛びます。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加