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大福ー! とか、うなー! とか、るりー! とか、ジェーン! とか、キーちゃーん、とかとか。
疲れているはずなのに、車の中は大騒ぎだった。
みんな笑ってなんだかすごく楽しくて、騒ぎすぎたらおなかが減って、途中、パーキングエリアで斎藤様のお弁当をいただいた。
お弁当が入っていた紙袋には、小さな小瓶もまぎれてて、それには【ルミちゃんへ】の付箋紙が貼ってあり……中身は甘いハチミツだった。
そうだ……キーマンさんが言ってたな。
事情を話してくれる途中、泣いてしまった斎藤様に、ハチミツの小瓶ミニチュアを渡しながら『クマと会ったら、これで乾杯すればいい』って。
ルミちゃんへの“ハチミツ”は、そういった意味合いがあるのだろう。
そのことを伝えると、
『フ、フン……みどりのヤツ、こんなコトしたって……バカだな。オレは霊体だから食べられないよ、……でもまぁ……うん、』
クマは慌てていた。
思いがけないプレゼントが嬉しいんだろうな。
だけどそれを必死に隠すルミちゃんに、僕達三人の霊媒師はニヤリと笑い、声を揃えてこう言った。
「「「ハチミツ、どうぞ召し上がれっ!」」」 + 「イエァッ!」
数瞬後、ルミちゃんの口の中に広がったであろう、甘いハチミツの味。
丸い手で丸いほっぺをおさえたまま固まっている。
そして、
『な……なんだこれ、口の中がとろけそうだ……やさしい……これがハチミツ……? ……フ、フン……こんなコトしたって……したって……ああ、こんなの……初めてだ……おいしいんだな……クソ、ズルいぞ……ああ……みどり……ごめん……ありがとう、』
あ……解けた。
十年も続いた呪いが、今をもって完全に終わった。
斎藤様もルミちゃんも、本当に自由になった瞬間だ。
____誰が誰を許す?
____誰が誰に許される?
答えは簡単。
互いに互いを許したんだ。
縛るものはなくなった。
そう、だから後は幸せしかないよ。
お弁当を食べ終えた僕達は、東京に向かい再び走り出した。
ふと気が付けば、いつの間にか猫と熊が眠りについている。
寄り添って丸くなり、重なる寝息がなんとも可愛らしい。
僕達男三人は、眠る二体を起こさぬように、静かに黙って窓の向こうを眺めていた。
それはとても優しくて、心地の良い沈黙だった。
霊媒師 深渡瀬 嵐__了
★東京に戻った後、みんなでルミをキレイにするお話が、別作『霊媒師こぼれ話』の『第七章 霊媒師こぼれ話_レッツハッピーバスタイム』に続いています(*´ω`*)
https://estar.jp/novels/25916752/viewer?page=151&preview=1
※こぼれ話に飛びます。
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