第十九章 霊媒師 入籍

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ドキドキしながら眺めていたら、組手の途中でマコちゃんがこっちを向いた。 「おっ! ユリ、起きたのか。おはよう。そんな恰好で寒くねぇか?   親父(わり)いな、10分休憩だ」 キャー! マコちゃんが来るー! ジャージのジッパーを下げながら、脱ぎながら、ズンズン歩いて傍に来て、開けた窓のコッチとアッチで向かい合った。 「明け方は肌寒いだろ、コレ着とけ」 そう言って脱いだばかりのジャージを肩にかけてくれた。 「マ、マコちゃん、ありがと」 明け方だけど6月だし、ぜんぜん寒くないけど、マコちゃんの優しさと汗が染み込むジャージが嬉しくって腕を通す。 ああブカブカだ、けどいいの、だって幸せ、ちょっと暑いくらいだけど、それでも幸せ。 「ん? んー? どうしたユリ、顔が赤いぞ。大丈夫か? 身体の調子良くねぇのか? だったら今日は会社休め。事務の仕事なら俺がやるから心配しなくていい。無理するな」 外側から手をのばして私の頭をクシャクシャと撫ぜ、そのままおでこに手を当てられた。 ボンッと瞬間的に体温が上昇するのがわかる。 「マ、マ、マコちゃん、違うの、心配しないで。体調悪くない、すごく元気。だから一緒に会社行く、」 やだよ、会社に行けば一緒にいられるのに休みたくない。 それに本当に元気だもの、顔が赤いのは体調のせいじゃなくてマコちゃんのせいだもん。 「そうか? 無理してねぇか? 大丈夫ならいいけどよ。まぁ俺もいるし、もし会社に行って辛くなったら更衣室で寝てろ。それと朝メシは作らなくていい、俺がやる。出来上がったら呼ぶから休んどけ、親父ー! 組手は終わりだ! ユリの体調が今一つなんだ、だから」 「待ってーーーー!」 「ん? どした、なんか食いてえモンでもあるのか? 作ってやるぞ?」 「ほんとに大丈夫なの、顔が赤いのも熱っぽいのも体調が悪いからじゃないの。ごはん作れるから、ぜんぜん作れるから心配しないで、ね?」 「……でもよぉ、ウチで一緒に住むようになってから、ずっとポーッとして調子が悪そうだと思ってたんだ。慣れない環境で疲れてるんじゃねぇのか?」 「んと……慣れない環境というよりは最高の環境で……そのせいでポーッとするというか、えっと」 本当のコトを今言うのは恥ずかしい。 こんなに心配してくれるのに、マコちゃんにドキドキしすぎて熱くなるなんて言えないよ。 マコちゃんは私の気も知らず、顔を覗き込んでくるものだから、ますます体温が上昇してしまう。 お願いだから一回離れて、落ち着きたいよー。 あ……そうか、こういうコトなんだ。 (らん)さんが言っていた、”緊張でパニックになる”ってこれに似てるのかもしれない。 私はマコちゃん限定の赤面症なんだ。
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