第十九章 霊媒師 入籍

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◆◆ …… ………… ………………ユリ……ユリ…… 「ユリ、おまえ覚えが早いなぁ! いやマジで助かるよ。前の事務担が急に辞めちまって、俺一人で事務と現場とエイミーの研修をしてたんだ。さすがにな、身体は一つしかないからキツかった。この分なら事務は近いうちに任せられる」 どうしよ……社長がカッコよくて緊張しちゃう。 大丈夫かな、私……顔真っ赤じゃないかな、変な子だって思われてないかな。 初めての会社勤め、株式会社おくりび。 生者と死者の間を取り持つ特殊な会社。 ここで私は事務を担当する事になった。 不思議な縁だと思う。 爺ちゃんの願いで上京したはいいけど、仕事なんか決まってなくて、そんな時、ママを通して知り合った岡村さんから連絡をもらったの。 事務に欠員が出たから、ウチの会社で働かない? って。 私はもちろん飛びついた。 仕事を探さなくちゃいけないのもあるけど……お世話になった岡村さんや先代、それから社長にも、もう一度会いたいなぁって……そう、その時はそのくらいの気持ちだった。 面接試験のつもりで行ったのに、「面接じゃないよ、入社は是が非でもしてもらいたい、今日来てもらったのは入社手続きの為だ」そう言われて驚いたんだ。 嬉しいけど本当にいいのかな……?  幽霊相手の会社の業務は特殊だろうけど、私自身も特殊だよ。 父は殺人犯、母も祖父母も亡くなって、家族のいない天涯孤独の18才。 なにかあっても身元保証人すらいないんだもの。 雇うには少々難あり、呼んだはいいけどやっぱり今回見送ります……ってなるんじゃないかと思ってた。 なのに社長は言ったんだ。 「……おまえは親も兄弟もいねぇし、ましてや慣れない東京で一人暮らしだ。大変なこともあるだろう。だけどな独りじゃあねぇ、俺らがいる。もしもこの先、困ったことや怖いことがあっても独りで抱えるな。遠慮も迷いもナシですぐに言え。迷惑になるとか考えるな、むしろかけろ。おまえはもうこの会社の人間だからよ、社長の俺がおまえの親で社員達は兄弟だ。そこんとこよく覚えといてくれ」 聞いた時……こんなの信じられないって思った。 だってこれ、11年前に私が爺ちゃんに言われたコトと内容はほとんど同じなだもん。 ママを失ってショックを受けてた幼い頃、こう言って根気強く愛情をそそいでくれたから立ち直る事が出来た……大好きな爺ちゃん。 なんでこの人は、爺ちゃんと同じ事を言うんだろう。 それから社長が気になって仕方がなかった。 入社して研修が始まって、忙しい中、社長に仕事を教えてもらってるのに、胸がドキドキして体温が上昇して……私はそれを知られないように、頑張って平静を装った。 ガッカリされないように、教えてもらった事は必死に覚えて、役に立つ子だと思われたくて、……だから、社長に褒めてもらえると、嬉しくて幸せで、もっともっと頑張ろうって、思ってた。
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