第十九章 霊媒師 入籍

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私を送るとか、ゴハンを一緒に食べるとか、いきなり言われてココロの中はパニックで、「あの、ちょっと、」それしか言葉が出てこない。 社長は慌てる私におかまいなしで、 「メシ、なんか食いてえモンあるか?」 そう言って重たいカバンを軽々持って、どんどん先を歩いてく。 私はなんて答えていいかわからないまま、社長の後を小走りで追っていた。 会社の敷地内、建物裏手の駐車場。 社長の車は二台の社用車の隣に、並ぶように停めてあった。 わぁ……すごい車…… 銀色に光るゴツゴツした形のスポーツカー。 速そうだし、なんだか強そう。 車体はピカピカに磨かれているものだから、夕焼けがキレイに映り込んでいる。 きっと大事に乗っているんだろうなって、そう思える車だった。 「ちょっと待ってろ」 助手席のドアを開け、座席の荷物をポイポイ後ろに放り投げ、最後に私のカバンも後ろに置くと、 「乗っていいぞ」 と運転席に回り込んだ。 助手席のドアは開いたまま。 中を見れば、座り心地の良さそうな座席。 ハンドルの近くには小さなメーターがズラッと並び、時計とは少し違う文字盤が見える。 「………………」 ど、どうしよう……本当に乗ってもいいのかな。 私を送ってくれるって……嬉しいけど……そりゃすごく嬉しいけど…… 大変じゃないのかな……迷惑じゃないかな……? 私がグズグズしていると「どうした? 乗らねぇのか?」と社長が声を掛けてくれた。 「あ、あの! 私、上京したばかりで、この辺の地理とかぜんぜんわからなくて、それで、お、送ってくださるの、すごく嬉しいんですけど、でも、あの、遠回りにならないですか? 社長、言ってたじゃないですか。事務も現場も岡村さんの研修もあって大変だって。もし遠回りになるなら、社長が疲れちゃいます、だ、だから大丈夫です、帰り道は気を付けますから、お気持ちだけで十分ですから、」 本当は……チガウ。 もっと一緒にいたいなぁって思う。 でも……事務と現場と岡村さんの研修、これに私の研修まで増えちゃったんだもん。 社長にはちゃんと休んでほしい、また明日になれば会社で会えるから、だから、 「遠回りじゃねぇよ」 「え……?」 「だから遠回りじゃねぇって言ったんだ。会社からユリのアパートまで行っても、そこから俺んちまですぐ近くだ。ついでだよ、ついで」 「ついで……? 社長のおうち、ウチのアパートから近いんだ……そっか……そうだったんだ……じゃ、じゃあ、えっと、今日だけ……お、お言葉に甘えてもいいですか……?」 「ああ」 短く答えた社長はエンジンをかけると、何度か空ぶかしをした。 その音が大きくて、一瞬びっくりしたけれど、背中を押されたような気分になった。 …………えい! 思い切って助手席におじゃまする。 異変が起きたのは、座ってすぐのコトだった。 ただでさえドキドキしてる私の心臓は跳ね上がり、体温が上昇した。 手の平は汗が滲み、喉も渇く。 ああ、どうしよう……研修室とはまるで違う。 車の中は狭くって、社長がすぐ隣にいる。 近くて、息遣いまで聞こえてきそうで、緊張する……!
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