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どうしようもなくドキドキする。
息をするのも忘れるくらい。
高校受験の時でさえ、ここまで緊張しなかったのに。
だってこんなに社長が近い。
不自然にならないように、そっと隣を見てみると……凛々しい横顔。
ハンドルを操作する丸太みたいな太い腕は、長袖のワイシャツが肘まで捲り上げられて、硬そうな筋肉と立体的な血管が浮かんで見えた。
ああ……だめだ……見とれてしまう。
もっと見ていたいけど、社長に気付かれる前に目線を戻して下を向いた。
気をつけなくちゃ……あんまり見てたらおかしな子だと思われちゃうよ。
運転する社長は「夕方は混むよなぁ」なんて前を見ながら呟いていた。
私に言った感じでもなさそうで、夕方の退社ラッシュ、駅近くの五差路を、器用にくぐるように進んでいる。
東京……人多いな。
田舎じゃこんなに人はいない。
駅も立派だ。
大きな駅ビルに入ったT駅は、朝も昼も夜もいつだって人で溢れている。
駅の中もまわりにも沢山のお店があって、天使みたいな女の子達や、女神みたいな女の人達、それからたくさんの男の人達がおしゃべりしながら歩いている。
こんなのテレビでしか見た事がなかった。
だって実家の最寄駅は無人だもの。
一日に数本しかない電車じゃあ、生活するには不便すぎて、みんな車に乗っていたけど、こんなに大きな五差路なんてどこにもなかった。
田んぼや畑に囲まれた十字路を、譲り合いながら走ってた。
社長……うちの田舎を見たらびっくりしちゃうだろうな。
車の中は静かだった。
音楽もかかってないからなおさらだ。
社長は無口な人じゃない、岡村さんが一緒ならすごくいっぱい話すもの。
手ぶり身振りで、大きな声で笑うんだ。
私も何か話さなくちゃ。
でも何を話したらいいんだろう。
どんな話なら”ツマラナイ子供”だと思われないだろう。
静かなままの車は五差路を抜けて、今度は普通の二車線に出た。
だけどやっぱり広い道で、そこは渋滞してたけど、私はその渋滞がありがたかった。
道が混んでいれば時間がかかる、そのぶん社長と長くいられる。
「ユリ、疲れたか?」
突然社長が口を開いた。
私はびっくりして、緊張も高まって、さっきみたいな失敗はしないように、当たり前すぎる答えじゃなくて、おもしろいコトを言わなくちゃって思ったの。
「つ、つかれてないです。研修、覚えるコトがいっぱいだけど、学校の勉強よりも楽しいし、社長と一緒にいれて嬉しいです、」
あ……失敗した。
途中までは無難だったのに、最後にヘンなコト言っちゃった。
一緒にいれて嬉しいなんて、本当のコトだけど、仕事なのに、研修なのに、不真面目な子だと思われちゃうよ。
しかもぜんぜんおもしろいコト言えてない。
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