第十九章 霊媒師 入籍

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「一緒にいれて嬉しい? 俺とか? ははっ! そりゃ良かった!」 社長は特に気にする様子もなく笑ってくれた。 ああ……良かった。 変な子だとは思われてないみたい。 「女の社員の研修は気ぃ遣うんだ。ウチの会社はユリの他に、あと二人女がいる。両方とも霊媒師だ。アイツらの気の(つえ)えコトと言ったらよ。一人は大酒飲みの元ヤンで、もう一人は極度の人嫌いだ。二人が入社した時の研修は俺がやったんだけど大変だったよ。『おまえ地元どこ? ガチ勝負でアタシに勝ったら話聞いてやる』とか、いきなり霊矢で撃ってきて『顔を見ているだけで腹が立ちます』とか言いやがるんだ。新入社員がだぜ? まったく笑っちまうよなぁ」 せ、先輩方、すごい……で、でも、社長、楽しそうに話してる。 ”笑っちまうよなぁ”って……そっか、社長がオモシロイと思うポイントはこういう所なんだ。 私……今日一日、ひたすら真面目に研修受けてた。 スタートから間違ってたよ……ドヨーンと気持ちが落ち込んでしまう。 「でもよ、」 社長は運転しながら、ちょっとだけ私の方を向いてこう続けた。 「ユリは違う。ちゃんと席に着いて話を聞くもんな。必死になってノートとってよ、わからない事は質問してよ。覚えも早いし頼もしいよ」 研修なんだし席に着いて話を聞くのは普通の事では……そう思ったらちょっとおかしくなった。 緊張が少し解け(少しだよ、ほんのちょっぴり)、ふははと小さく笑ってしまう。 「ウチの会社は夏が繁忙期だ。7月あたりから依頼が増えてくる。そうなると俺も現場に出なくちゃならねぇ。霊媒師の勤務は直行直帰だ。報告書や交通費精算でたまには出社するけど、夏はそれも少なくなる。基本、ユリは一人で会社にいる事になるんだ。だからそれまでにある程度覚えてほしいと思ってる」 7月か……あまり時間がない。 大丈夫かな……? 頑張るけど、どうしてもわからない事があったら、一人でどうしたらいいんだろう。 不安に思う私に気付いたのか、社長は明るい声で言った。
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