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次の日、私は早めに出勤した。
”おくりび”の始業時間は8時半からだけど、会社に着いたのは7時過ぎ。
早く来たのは、研修が始まる前に昨日の復習をしたかったから。
ノートは家でまとめてきたけど、7月の繁忙期まで時間がないもの。
教えてもらった事は確実に頭に入れておきたい。
「きっと一番乗りだ」
ウキウキしながら正面玄関の扉に手をかけ、えいっと引いてみた、けど……扉は開いてくれなかった。
ガチャガチャガチャ、
やっぱりダメだ……何度引いても開かないよ。
どうして開かないか。
それは鍵がかかっているからで、よくよく考えてみれば当たり前だ。
昨日の帰り、社長が施錠してるのを見たじゃない。
普段、霊媒師の先輩方は現場に直行直帰だと言っていたし……と、いうコトは、鍵を持ってる社長が来なければ会社の中には入れない。
そういうの、ぜんぜん考えてなかった……
頼みの社長は、いつも早くに出社してると言ってたけど、さすがに7時じゃちょっと早すぎたみたいだ。
「……やっちゃった」
せっかく早く来たというのに、これじゃあ意味がないよ。
はぁ、ため息が出た。
たまにこういうポカをする、こんな自分がいやになる……だけど、うん、切り替えよう。
大丈夫、だって資料はカバンの中に入ってるもの。
今日は天気がいい、外で勉強すればいいんだ。
キョロキョロ敷地を見渡すと……あ、花壇のそばにウッドテーブルとウッドチェアーを発見!
やったぁ、これで勉強できる!
社長、先代、テーブルをお借りします!
ウッドテーブルで昨日の復習をする。
日を改めて見直せば、どこが理解が薄いのかがわかってきた。
あやしい箇所に付箋を貼って、社長が来たら質問しようと準備する。
社長早く来ないかな。
来たらいっぱい教えてもらおう。
それから昨日のお礼も言おう。
社長の事を考えたら、やる気がたくさん湧いてきて、よしっと新たに気合が入った。
時計を見れば8時を過ぎたところで、まだもう少し勉強出来る。
「ユリ? ずいぶんと早ぇじゃねぇか。つか、こんなトコで何してんだよ」
集中しすぎてまわりが見えていなくって、いつの間にか出社した社長の声にハッとする。
慌てて顔を上げると、そこには半分笑って半分呆れたような社長がいた。
「お、おはようございます」
「おはよ。で? おまえ何してんだ? ……って、オイ、マジかよ。勉強してたのか……」
ウッドテーブルに広げた資料とノートを見た社長が、目を見開いて驚いている。
「べ、勉強っていっても大したコトはしてないです。昨日の復習をしようと思って……あ、そうだ! わからない所に付箋を貼っておいたんです。あとで質問してもいいですか?」
習った事を確実にしたくってそうお願いした。
社長に認めてもらいたいのもある。
だけどそれだけじゃない。
新しい事を覚えるのは楽しい。
社長は少し黙って、軽く息を吐き、私をジッと見てからこう言った。
「ああ、もちろんだ」
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