第十九章 霊媒師 入籍

17/102
前へ
/2550ページ
次へ
午前中は質問タイムとなった。 何を何回聞いても答えてくれる。 「わからなければ何度でも聞け。さっきも聞いたのにとか思わなくていい。分からない事を分からないままにする方が問題だ」 そう言ってくれるから、私も遠慮なく聞いてしまう。 実際社長はなんでも知っていた。 社長が社長になる前は霊媒師だったはずなのに、どうして事務の仕事も出来るのか聞いてみると、 「うちは昔から事務が長く続かないんだ。やっぱり幽霊が怖いって辞めるヤツもいれば、日中一人で回さなくちゃならねぇのが辛いって言うヤツもいた。だから辞めるたんび俺が代わりに処理してたんだ。それで覚えた」 そうだったんだ。 社長、大変だったんだな。 ちゃんと研修を受けたんじゃないのに、急遽事務の仕事をしなくちゃならなくて、それでもここまで出来るようになったんだ。 すごいな……私も頑張ろう。 社長がこれから色んな仕事を抱えなくていいように、事務だけは私がぜんぶ引き受けるんだ。 午前中いっぱいかけて、わからない事を潰してもらったおかげで、昨日までの内容はすべて頭の中に入った。 午後からは新しい事を教えてもらう。 休憩をとるのももったいなくて、「そんなにいっぺんに大丈夫か?」と心配する社長に「大丈夫です」と答え、休む事なくぶっ通しで研修を続けてもらった。 時間が経つのが早かった。 夢中になってノートを取って、質問して、話を聞いて、そうこうしてたら終業のチャイムが鳴った。 もう終わり? まだまだ聞きたい事はたくさんあるのに、と、ペンを置かずに社長を見れば、 「ユリ、今日はここまでだ」 そう言って席を立つと、んんーと大きな身体を伸ばしたの。 その姿を見た時、そこでようやくハッとした。 社長……ずっと研修してくれたから疲れちゃったんだ。 ”そんなにいっぺんに大丈夫か?” って聞かれたのに、大丈夫だからと休憩も断った。 失敗した……だって私がそうしたら、先生である社長も休めないのに。 それに気付いて、頭を抱えるほど後悔した。 やっちゃったよ、私は人からしっかりしてそうとよく言われるけど、本当はそんな事ないの。 そそっかしいし、あわて者だし、一つの事に夢中になると他が見えなくなってしまう。 爺ちゃんが生きていた頃、それでよく呆れられていたのに……社長の役に立つどころか負担をかけてしまった。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加