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「あ、あの、社長、すみません。疲れちゃいましたよね。私……休憩いりませんだなんて自分の事しか考えてなかったです、」
一人で張り切って、一人で暴走して恥ずかしい。
謝る声も小さくなってしまう。
社長も呆れただろうなって思ったら、顔が上げられなくて俯いた。
なのに、落ち込む私に降ってきたのはゴツゴツの大きな手で……
「あぁ? んなこと気にすんな。言っただろ? 俺は頑張るヤツが好きだ。ユリが早く仕事を覚えてぇって言うんなら、とことん教えてやるからよ」
そう言って、ワシャワシャと頭を撫ぜてくれた。
そして、
「んじゃあ帰るか、」
社長は言ってからドアに向かって歩き出す。
私は慌ててノートと資料をカバンに詰めた。
今日はとうぜん電車で帰るつもりで、だからせめて玄関までは一緒にいたいと、急いで後を追おうとした。
すると社長が振り向いて、
「ユリ、悪い。そこにある俺のジャケット持ってきてくれ」
そう言ったの。
急に言われてキョロキョロすれば……あった。
社長の机にくしゃくしゃなまま置かれた大きなジャケット。
手に取ればそれだけで胸がドキドキしてしまう。
だけど……ドキドキするのはそれだけじゃすまなかった。
「運転中はどうせ着ねぇからよ、車に乗ったらソレ、膝にかけとけ」
え……?
それって……また今日も一緒に帰るの……?
社長のジャケット、膝にかけてもいいの……?
「おい、なにボーッとしてんだ。早く帰るぞ」
笑いながら、大股で、ドアを開けて歩き出す。
送ったら遠回りになっちゃうのに……私はそんなことを思うのに、なのに心のどこかで嬉しくて、社長の後を追いかけたんだ。
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