第十九章 霊媒師 入籍

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◆◆ 「よし、部屋の中に不審者はいないな。んじゃあ帰るからよ。俺が出たらすぐに鍵を閉めろ。いいな?」 社長はそう言って、私の頭をクシャクシャしてからドアを閉めた。 言われた通りすぐに鍵を閉める。 そして急いで部屋の奥に行き、閉めたままの窓から帰る社長に手を振った。 気が付いた社長は手を振り返し、車に乗り込みエンジンをかける。 夜だからか空ぶかしはせずに、短くクラクションを鳴らすと、車はゆっくりと発進した。 私は窓にかじりつき、車が見えなくなってしまうまでずっと眺めていた。 「帰っちゃった……」 二人でいるのが楽しくて、だけどその分いなくなれば淋しく感じる。 なんか……贅沢なコト言ってるな。 今のままでも十分幸せなのに。 「さてと、」 淋しい気持ちを紛らす為にも、私は玄関で山積みになっている買い物袋の数々に挑むコトにした。 あのあと社長は、 「なんも考えずに入っちまったが、ちょうどいい。スーパーマーケット(ココ)で米とかジュースとか重たいモノを買って帰ろう。どうせ必要だろ? 俺が運んでやるから」 そう言ってくれんだ。 玄関には社長が運んでくれたお米5kgと、ペットボトルのお茶やジュース、それともちろん食材も、私一人ではとてもじゃないけど持ちきれない量の買い物をした。 それらを何回かにわけてキッチンへと運ぶ。 買ったものを手にとるたび、その時に話したコトを思い出し、顔がふにゃふにゃしてしまう。 スーパーで居合わせたお客さんたち、私と社長を見てどう思ったかな? 彼氏彼女だと思ったかな? それでなければ夫婦とか思われたりして。 ふ、夫婦……? きゃー! 勝手な想像は私をどうしようもなくジタバタさせた。 今日もいい日だぁ。 研修ではたくさん教えてもらえたし、社長は今日も送ってくれて、帰り道に一緒に買い物もした。 社長の趣味もわかったし、それがキッカケでたくさん話せた。 それと、それと、奇跡としか言いようがないけど、社長に彼女さんがいないってコトもわかった。 それだけじゃない……ふははは、買い物も終わった帰り道では他にもいろいろ聞いてしまった。 ”女の子は色々考えるものなんです”、これが魔法のコトバとなり、社長は何を聞いても「そういうものか」とすんなり答えてくれた。 「社長はどんな女性がタイプなんですか? えっと深い意味はないです。女の子はみんなそういう話が好きなんです」 「そういうものか。好きなタイプか……特にこだわりはねぇな。好きになった女がタイプだ」 「えぇ……? そうなんですか……? 困ったな、それじゃあ参考にならないよぉ……あ、何でもないです、独り言です。なんかないですか? たとえば……髪は長い方が良いとか、短い方が良いとか、料理が上手な人が良いとか、活発な女の子が良いとか、大人しめが良いとか……なんかあるはずです。よーく考えてみてください」 「お、おう。そうだなぁ……髪はなぁ、どっちかって言うと(なげ)え方がいいな。ホラ、俺がこんなだからよ。料理は上手くても下手でもどっちでもいいや。下手なら俺が作ればいいし。ウチは母親がいねぇからメシはずっと親父と交代で作ってたんだ。料理をするのは苦じゃねぇ。あとなんだ、活発でも大人しくてもどっちでもいいや」 「もぉ……こだわりがないとか、どっちでもいいとか、そんなのばっかり……」
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