第十九章 霊媒師 入籍

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◆◆ 次の日。 起きると気持ちが良いほど天気が良かったので、私はいそいそとアパートを出た。 今日も早く出社して、昨日の研修の復習をするの。 こんな時間じゃ社長も来ていないだろうから、会社の中には入れないけどダイジョウブ。 だってこんなに良い天気だもん。 外で勉強するにはちょうどいい。 昨日は結局、家で勉強が出来なかった。 だって……ふはははは。 カエルちゃんを作るのに遅くまでかかってしまったんだもん。 完成した時、気付けば0時近くになっていて、あわててお風呂に入ったんだ。 そのせいで昨日はノートすら開いてない。 おかしいなぁ……カエルちゃん、爺ちゃんに作った時は早かったのになぁ。 社長にあげるのかと思うとドキドキしちゃって、丁寧に作ろうと気合が入っちゃったのかもしれない。 だけどその分うまく出来たと思う。 ピンク色で頭にはお花の飾り。 ”毎日無事に帰れますように” ってお願いもしておいた。 きっとこれで大丈夫。 社長を守ってくれるはず。 会社に着いて、さぁ勉強するぞー! と、庭のウッドテーブルに行こうとした時、私はそこにいた人を見て、びっくりしちゃって言葉が出てこなかった。 うそ……なんで……? 「お、来たか優等生! ホラッ! これ飲め!」 そう言ってポンと投げて寄越したのは缶コーヒーだった。 わわわっ! ハシッ! 良かった……落とさずに受け取れた。 コーヒーのラベルには【微糖】の文字。 きっと甘いのがいいのかブラックがいいのか分からないから、それで中間の微糖にしたんだろうな。 「しゃ、社長、きょ、今日は早いですね、だって昨日、さすがにこんなに早くに出勤しないって言ってませんでした?」 いないと思っていた社長がいた。 スーツじゃなくて、黒地に金色の線が入ったジャージ上下で、笑いながら私を見てる……うそ……今、朝の7時前だよ? 会えて嬉しいけどなんで……? 「ああ、いつもはここまで早く来ねぇんだけどよ、今日は結界のメンテがあったんだ」 「結界……あっ! 会社に張っているんでしたよね? 建物全体に……えっと、建物に絡む(ツル)霊力(ちから)を流し込んで結界にしてる、……合ってますか?」 入社前、会社説明の時に聞いたんだ。 彷徨う霊が会社の中に入ってこれないよう、植物結界を張っているって。 建物全体を覆うように絡む(つる)。 決めてある起点から霊力(ちから)を流せば、この(つる)はただの(つる)でなくなって、強力な結界へと進化する。 霊力(ちから)は一度流せば、2~3日は放っておいても大丈夫。 なんだけど……逆に言えば定期的に霊力(ちから)を補充しないと、結界としての機能が働かなくなるって事なんだ。 「おう、正解だ! もうな、感動すら覚えるわ。前に話した女の社員の一人なんかよ、この説明を半年かけて理解させたんだ。『なんで草が結界になるんだよ! アタシは信じないから!』とか言ってな。ユリは説明会でチョロっと話した事をちゃんと覚えてるもんなぁ」 社長はしみじみ言ってるけど、よ、良かった。 説明会で聞いた時、(つる)が結界になるの!? って驚いたから、たまたま覚えてたの。 さすがに一回聞いただけで全部は覚えられないもん。 ふはは、社長に褒めてもらっちゃった。 嬉しいなぁ。
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