第十九章 霊媒師 入籍

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「それじゃあ、今日は霊力(ちから)の補充で早く来たんですか?」 社長からいただいた缶コーヒーを飲みながらそう聞くと、 「そうだ。基本、大体俺が張ってる。俺が現場に行くのは繁忙期と新人研修の同行時くれぇだからな。繁忙期になって俺も会社を空ける日が続く時は、他の社員に交代で頼んでる」 「そうなんですね。でも、繁忙期になったら先輩方も現場に直行じゃあないんですか? 誰も来れない時とかどうするんですか?」 「そういう時は、常時在宅勤務のヤツが一人いるからよ、ヤツに出てきてもらってる。出社して(つる)霊力(ちから)やってトンボ返りだ。負担掛けちまうけど、結界に穴を開ける訳にいかねぇからな」 在宅勤務で霊媒師? どうやって仕事をするんだろう。 そうだ、帰りの車で聞いてみようっと。 やったね、話すコトひとつ増えた。 「本当はなぁ。常に出社してる事務担当が結界張れりゃあ、一番世話ねぇんだけどよ。今までの事務担はみんな霊感なんてなかったからな、だから俺が、………………そういやユリ、おまえ霊感あったよな。真さんを視て話せるもんな、」 「えっと……視えるし話も大丈夫です。あの……私のは”霊感”なんでしょうか? 爺ちゃんや婆ちゃん、それにママは家族だから視えるだけなのかなって思ってましたけど……」 それに爺ちゃん達の姿が視えるようになったのは、つい最近の話だもの。 ママは元々いなくって、去年は婆ちゃん、今年は爺ちゃんが死んじゃって、ひとりぼっちになってから視えるようになったんだ。 「ユリは道歩いててよ、すれ違うヤツの中に変なのが混ざってたりしないか? おまえが真さんを視る時と同じ、身体に陽炎のような揺らめきのあるヤツがよ」 ゾクッと鳥肌が立つ。 改まって考えるまでもない、道でも駅でも電車の中でも、 「……ん、たまに視ます」 本当はたまにじゃない、しょっちゅう視る。 でも、たとえそれが生きている人でも、亡くなっている人でも、知らない人と話すのは怖いから目を合わせないだけ。 薄々そうかなとは思ってたけど、やっぱり……幽霊だったんだな。 「そうか……ははっ! よしわかった! これは俺にとって、いや、会社にとっての朗報だ! ユリ、印は俺が教える! だから結界張れるようになってくれ!」 ぐぃっと私に近付いて、子供のような顔で「頼む!」と両手を合わせてる。 社長のためなら何でもしたい、で、でも、 「わ、私がですか!? 私、霊媒師さんじゃないのに、教えて頂いたくらいで結界を張れるようになるんでしょうか、」 「なる、つーかよ、させる! ユリが出来るようになってくれたら、スッゲェ助かるんだよ」 そ、そんな事を社長に言われたら頑張らない訳にはいかない。 だけどな、事務の仕事ならともかく結界なんて……ううん。 爺ちゃんもよく言ってたじゃない。 ____出来ねぇじゃねぇ、やるんだよ って。 「社長、あの、覚えが悪いかもしれませんし、もしかしたらいつまでも出来ないかもしれません、でも頑張ってみます。だから教えてください」 そうだ、私は社長の役に立ちたいの。 ユリがいると助かるなって言われたい。
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