第十九章 霊媒師 入籍

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◆◆ 「すみません……私、ぜんぜん出来なかった」 時刻は8時15分。 社長に「結界を張れるようになってくれ!」と、お願いされてからの1時間と少し。 せっかく特訓してくれたのに、結局私はなんにも出来なかった。 それどころか社長の説明の意味すらわからず、おたおたするばかりだったんだ。 なんの成果も出せないまま始業時間が近くなり、今は二人事務所の中にいる。 こんなに出来ないとは思わなかった……なんてガッカリさせちゃったかな。 ドヨーンと気持ちが落ち込んで、やっぱり私に結界なんて無理なんだ、いくら社長の役に立ちたいからって安請け合いしちゃったと、恥ずかしさと申し訳なさで顔を上げる事が出来なかった。 「出来なかったって? そんなの当たり前だろ。まだ始めたばっかりだ。これで出来ちまうくれぇなら、事務じゃなくて霊媒師に配置換えするっつの」 見上げるほどに大きな社長は、カラカラ笑って私の頭をクシャクシャと撫ぜた。 うぅ、ごめんなさい。 私は優等生なんかじゃありません。 不真面目なのに真面目なふりをしてるだけ。 だって……こんな時だというのに、撫ぜられて嬉しくてドキドキしてしまうんだもの。 あまりにも出来なくて挫けそうになったけど、やっぱり私は社長の役に立ちたい。 「……ありがとうございます。あの、私頑張ります。事務なら毎日会社に出勤するんだもの。私が出来るようになれば、社長、少しは楽になりますよね、」 「ああ、少しどころじゃねぇ。めちゃくちゃ助かる。でもな、焦らなくていい。ダメ元でよ、もし出来るようになってくれりゃあ御の字だ。まずはアレだな、地道に放電の練習から始めよう。なに、大丈夫だ。エイミーだって最初は出来なかったんだからよ」 め、めちゃくちゃ助かるのか、そっか……ふは……ふはははは、私も調子がいいな、挫けそうになったクセに、社長の一言で元気になった。 出来ないじゃない、やるんだよね? 爺ちゃん。 うん、頑張る! さっそく社長に放電のコツを聞こうとした時、事務所の電話が鳴った。 で、出た方がいいかな? でもな、もしも依頼者の方だったらどうしよう。 モタモタした挙句社長に代わるくらいなら、最初から出てもらった方がいいかな。 でもでも、電話に出るのも勉強のひとつかもだし……なんてパニックになっていたら、社長があっさり受話器を上げた。
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