第十九章 霊媒師 入籍

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「お電話ありがとうございます。株式会社おくりび、清水でございます」 クラッ……! うそ……ステキ……いつもの社長と全然チガウ。 普段のフランクさも大好きだけど、仕事の時はこんなに真面目になるんだ……初めて聞いた……この低くて通る声……柔らかいのに頼りになる話し方……どうしよう……録音したい……ヘッドホンで……音大き目で……毎日聞いていたい……あ……熱が上がってきちゃたかも……顔がスゴク熱い…… 「ああ、なんだよ、キーマンかぁ! 依頼者かと思って気取っちまったぜ!」 あ、戻った。 いつもの調子だ。 社長はどうやら”キーマンさん”という方とお話をしてるみたい。 名前からして……外国の方かな? 「二件とも無事に終わったか、おつかれさん。悪かったな、現場のハシゴなんかさせちまってよ。でも助かった、なんたって失せ物系はおまえが一番頼れるからな。ああ、ああ、そうか、これから出社するんだな。わかった。ま、報告書は1日かけてゆっくり作ってくれや。あ、それとよ、交通費の精算なんだが、事務に新しい子が入ったんだ。まだ研修中だが、その子に処理させてやってくれねぇか? 初めてだし遅いかもしれないけど……あぁ? 構わねぇって? ははっ! そうか、そう言ってくれると思ったよ。んじゃ待ってるから」 受話器を置いた社長は、なんだかすごく楽しそうに私を見たの。 そして、 「ユリ、今日の座学は中止だ。これから現場を終わらせた霊媒師が出社する。報告書の作成と立て替えた交通費精算の為だ。昨日までの座学で交通費精算の手順を説明しただろ? 今日は実際に処理してみよう!」 あ……聞いてた話の中で、そうなのかなぁとは思っていたけど、社長に言われて一気に緊張してきたの。 座学で聞いた内容は覚えてるし、手順をまとめたノートを見れば処理できるかもしれない……けど、 「は、はい! 頑張ります、で、でもな、本物の交通費精算なんてダイジョブかな、私、モタモタしちゃうかも、迷惑かけちゃったらどうしよう、」 心配を口に出してしまったからか、途端に不安になってしまう。 社長はさっき「現場のハシゴなんかさせちまってよ」って言っていた。 疲れているだろうな、なのに、私じゃイライラさせてしまうかも。 「おまえ、ホントにわかりやすいヤツだな。そんなに不安そうな顔するな。大丈夫だ。キーマンは良いヤツだから、どんなに遅くたって文句を言ったりしねぇよ。それに……んぷっ! 会って話せばビックリしちまって、それどころじゃなくなるはずだ。緊張も不安もぜんぶ吹っ飛ぶから安心しろ!」 ほ、ほんとかな、だいじょぶかな、でも……社長が大丈夫と言うんだもの。 それならきっと、キーマンさんは優しい方だ。 会って話せはビックリする、の意味が良く分からないけど、とにかく今は準備をしなくちゃ。 私はカバンの中からまとめたノートを取り出すと、インデックスを貼り付けた”交通費精算”のページを開いた。 だ、だいじょうぶ、この通りにすれば精算は出来る……はず!
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