第十九章 霊媒師 入籍

29/102
前へ
/2550ページ
次へ
そうこうしているうちに始業のチャイムが鳴った。 気持ちはソワソワのワタワタで慌ててしまう。 「キーマンが何時頃来るかって? そうだなぁ、早ければそろそろ、でなけれは昼くらいまでには来るんじゃねぇかな」 聞けば、現場が終わった後の出社に関して、そううるさくはないらしく、大体お昼頃までに出社すればいいらしい。 現場に出れば進捗次第で拘束時間も長くなるから、せめて出社の時はゆるくしようと社長が言い出したんだって(現場後じゃない時は通常の8時半出社)。 という事は……キーマンさんがいつ来るかわからないってコトなんだ。 むしろプレッシャーがかかる。 時間があるのかないのか曖昧なまま、急いでノートを読み返す……けど。 焦っているのか(いるけど)、ちっとも頭の中に入ってこない。 手順も覚えたはずなのに、ぱぁっと抜けてしまった感じがする。 最初に何を確認すればいいんだっけ? えっと……そう、まずは領収書があるかないか。 領収書があればそれをもらって、なければ自宅から現場までの交通手段を書類に書いてもらって、交通費をネット調べて計算して、それから、それから……はぅ……貧血起こしそう。 ダメ、落ち着かなくちゃ。 大丈夫、社長が言ってたじゃない、キーマンさんは優しい方だと。 私が研修中だって事を伝えてくれたし、少しだけ大目に見てもらって、だけどなるべく早く処理をして……ああ、でも待って。 もうひとつ問題があったんだ。 私はけっこう人見知り。 処理も不安だけど、初対面の方とお話するのも不安なの。 「社長! 精算する間、傍にいてくださいね! 社長がいてくれたら緊張も減ると思うから……あーっ! どこに行くんですかー!?」 ちょっと前まで目の前にいたというのに、社長は軽い足取りでドアに向かって歩いていた。 「どこって、ションベ……いや、トイレだよ。それからエイミーを呼びに行こうと思ってな。アイツもまだキーマンに会ったコトがねぇからよ。ヤツは今頃3階の研修部屋でジジィと失せ物探しの特訓をしているはずだ」 そっか、出社してるはずなのにココ何日か会わなかったのは、ずっと3階にいたからなんだ。 社長と自分の研修のコトで頭がいっぱいだったから……ごめんなさい、ちょっと忘れてました。 ああ、だけど、キーマンさんを紹介する為に岡村さんを呼びに行くなんて……うぅ、そんな理由じゃ無理に引き止められないよ。 「わ、わかりました。そのかわり、岡村さんと先代とすぐに戻ってきてください! 私、社長がいないと不安なんですぅ!」 「ユリはおおげさだな、ダイジョブだって。ま、すぐに戻るからよ。キーマンもそんなに早くは来ねぇさ。んじゃ、呼んでくる」 大きな手をヒラヒラさせて、大きな背中がドアの向こうに消えた。 ど、どうしよ……一人になっちゃった。 どうかまだいらっしゃいませんように。 せめて社長が帰ってくるまで……そう祈っていたのに。 コッ、コッ、コッ____ 廊下を、誰かが歩いてくる音が聞こえた。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2372人が本棚に入れています
本棚に追加