第十九章 霊媒師 入籍

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しばしの沈黙……なんだけど、目の前のキーマンさんはニコニコしてて、その空気のおかげもあって緊張は薄い。 というか社長の言った通りだ。 ____会って話せばビックリしちまって、 ____それどころじゃなくなるはずだ、 ____緊張も不安もぜんぶ吹っ飛ぶから安心しろ、 は、はい、吹っ飛びました。 と、東京ってすごいな、田舎でこんな話し方をする人は一人もいなかったもん。 それに……すごく個性的な恰好なの。 パンツは……皮かな? 黒色でピタッとしてて……あと脚が細くてすごく長い。 シャツはニシキヘビと同じ模様でワイルドな感じ。 なんだか懐かしいな……田舎のヘビを思い出しちゃう。 はさすがにニシキはいなかったけど、青大将ならそこいらじゅうでニョロニョロしてた。 そのシャツの胸のボタンは3つも開いていて、複雑な彫刻を施した十字架がチラリと見える。 髪は茶色で外向きに跳ねているけど、きっとワザとなんだろうな。 形がキレイだもの、寝ぐせとは違いそう。 あ、あと耳、両方の耳たぶにはたくさんのピアスがついていて、ほとんど地肌が見えない。 すごいな、あんなに開いてて痛くないのかな……? 昔、私もピアスがしたいと言ったら、爺ちゃんが猛反対したんだっけ。 「バービー? ホワッツ ハプンド(どうした)? まだ緊張してるのか? もしかしてバービーはシャイガールなのか? OKOK、ノープロブレム(問題無し)。シャイでもハイでもどっちも個性だからな。Soシャイガール? アゥイェッ! ウェルカムだ!」 キラッ! 内気でも良いんだよ(合ってるよね……?)と言ってくれたキーマンさんは、真っ白な歯を光らせて笑っている。 緊張とはまたチガウ、今の私はキーマンさんの話し方に圧倒されて口数が減っているのだ。 だからといってそうとも言えないので「きょ、恐縮です」とフワッとその場を濁してみた。 するとキーマンさんは、 「”恐縮”? ハッハーッ! ヤングなのにストーンワード(オカタイコトバ)を使うんだな。ところでバービードール、もし良ければ自己紹介をしてくれると俺が最高にハッピーになるんだが……アーユーオッケー?」 そう言ってバチンと片目をつむった。 自己紹介…………? …………あーっ! 「ご、ごめんなさい! キーマンさんは自己紹介してくださったのに、私はまだでしたよね、失礼いたしました。あ、あの、私、このたびこちらで事務を担当させていただくコトになった藤田ユリです。今年の3月に高校を卒業して上京してきました。会社でお勤め自体が初めてで、至らない所もあるかと思いますが、一生懸命頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!」 言い終えて上半身を腰から45度くらいに傾けた。 もちろん視線は1メートル先で、高校生の頃ならしなかったおじぎの仕方だ。 新社会人になったばかりでビジネスマナーがよくわからないけど……大丈夫かな、間違ってないかな。 社長は良くも良くも(”良くも悪くも”じゃないよ、ワルイ所はひとつもないもん)フランクで「ウチの会社はそーいうのいらねぇ」だし、だからネットで調べたの。 キーマンさんに圧倒されて、ポカンとするばっかりで、言われるまで自己紹介もしていなかった。 ごめんなさいの気持ちを込めたんだけど、ちゃんと伝わるかな。
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