第十九章 霊媒師 入籍

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「バービードール……いや、リリィ。レイズ ユア ヘッド(頭を上げて)。リリィはまだエイティーン(18)か。ヤングだが礼儀正しいんだな。きっとリリィのパパンとママンがキチンとしてるのだろう。グレートなペアレンツだ」 真面目な顔で、キーマンさんはそう言ってくれたけど、それにすぐ答える事は出来なかった。 ママは……優しいしちゃんとしてる。 でもアイツは……頭の芯が氷に漬けられたみたいに冷えていく。 でも……キーマンさんはウチの事情なんて知らないんだもの。 私は未熟で礼儀正しいのかどうかはわからない、でもそう思ってくださるのなら、それはママと爺ちゃんと婆ちゃんのおかげだ。 「……ありがとうございます。あの……ひとつだけ訂正をさせてください。 キチンとしてるのは母と、母方の祖父母なんです。私を育ててくれました。アイツ……いえ、父は事情があってずっと会っていません。これからも会わないと思います……って、へ、へんなコト言ってすみません。そ、それと、リ、リリィって私のコト……ですかね? ”ユリ”と”百合”でその繋がり……?」 「そうだ。ネームがユリならリリィに決まってるさ。リリィ、パパンとは会うつもりはない、と言うからには、相当な事情があるんだろうな。俺はそれを聞くつもりはない。ただ一つだけ、リリィのボイスからママンとグランパ、グランマに対するラブを感じたよ。ファミリーは今どこに? こんなにプリティなリリィの上京をよく許してくれたな」 「……あのですね、えっと……家族はいません。もう亡くなってしまって、今は一人なんです。……あ! でも大丈夫ですよ? だってこの会社に入れたんだもん。社長も先代も岡村さんもみんな優しいし、良くしてくださるから。ほ、ほんと、すごく元気で、元気だけが取り柄で……ご、ごめんなさい。話の流れとはいえ暗いお話をしちゃいました」 失敗した……”ファミリーは今どこに?”と聞かれて、ウソをつくのも嫌だから、本当の事を話してしまったけど、重たいよね。 困らせてしまったかな……ごめんなさい。 キーマンさんは、驚いた顔をしたけど、すぐに表情を柔らかくした。 そして、 「そうか、大変だったな……、but……”一人で大丈夫か?”、”淋しくないか?”そういった事は今まで散々言われてきたんだろう? さすがにリリィも飽きただろうから俺はパスだ。きっと誰かが俺の分まで言ってるはずだからな。ヘイ、リリィ。youは最高にツイてる。何がツイてるってこの会社に入った事だ。ココの連中は口は悪いがハートは熱い。優しくておせっかいなヤツばっかりだ。だからリリィはロンリーじゃないんだよ。この会社に入ったらイヤでもみんなファミリーだ。オフコース、この俺もな」 さっきまでの話し方とは少し違う。 混じる英単語がぐっと減って、トーンも抑えてくれて、キーマンさんが本気で言ってくれてるのがわかる。 「ふはは、私もそう思います。この会社に入れて良かった、」 社長も先代も岡村さんもキーマンさんも、みんな優しい。 私はみんなに助けられているんだ。
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