第十九章 霊媒師 入籍

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以前の事務担当の方が使われていた机。 そこには事務処理に必要な書類の一式が揃っている。 交通費精算はもちろん、社員の方の有給休暇申請書、住所変更届け……などなど。 椅子の後ろには金庫があって、その中に交通費を精算するための現金なんかも入っている。 そしてノートパソコンと、サイドデスクに置かれたプリンター。 プリンターはもっと大きなものが少し離れた場所にあるけど、事務担当は印刷するたび立ったり座ったりを少なくする為、専用に1台設置してるのだと言っていた。 まだ何も出来ない私は、事務のプロの方が使うにふさわしい机におずおずと座ってみる……けど、なんだろ……恥ずかしいというか、照れてしまうというか……ちょっと嬉しい。 「ふはは……ぶにゃははは……ハッ!」 いけない! わ、我ながら不気味な笑い声をあげてしまった。 キーマンさんに聞かれちゃったかな。 は、恥ずかしいからごまかそう……! 「キ、キーマンさんは今回、2か所の現場に行かれたんですよね?」 「ん? イエッス! 会社を通した依頼は2か所だが、ソーリー。交通費はそれ以上にかかっているんだ。帰りの新幹線でメモしてきたが……ワン、ツー、スリー、フォー……オールで12~3か所分だ!」 「えぇ! そうなんですか!? ど、どうして? 2か所のはずが12~3か所分!? 計算合わない! いきなりのイレギュラーだ……ど、どう処理するんだろう、あわわわ……これは本当に7日かかっちゃうかも……!」 社長に教えてもらったのはノーマルバージョンだもの。 自宅から現場まで、行って帰ってくる基本パターンしか習ってない。 というか、どういう状況だったんだろう? 現場は2か所で、だけど追加で12~3か所分の交通費がかかったってコトは現場から、また別の場所に移動したってコト……だよね。 一体何回移動したの……? なんの為に? うぅ……わからないー! しゃーちょーうー早く戻ってきてー! 「ソーリー、いきなりこれじゃあパニックになって当たり前だ。なに、俺にはよくある事なんだ。俺の専門は”失せ物探し”、今回依頼を受けて行ってきたのはA県とF県なんだが、失せ物をファウンド(見つける)するのは、たいていワンデイでフィニッシュする。……but、俺のスピーディーなファウンドスキル(見つける力)を見た近所のマダムにマスター達、はたまた依頼者の親戚達が、急遽、次々依頼をかけてくるんだ。『オレのワタシの無くした物も探してくれ!』ってな」 「依頼が1件じゃ終わらないってコトなんですね……?」 「コレクト アンサー(正解)! A県でもF県でも、本来の依頼が終わった後、急遽2件目の依頼を受け、それがサクセス(成功)すると、噂を聞きつけた別のカスタマー(お客様)から3件目、4件目の依頼が入る。そんなこんなで移動に移動が重なるんだ。だがな、『ウチにも来てくれ』と言われたら断れない。俺のスキルが誰かをハッピーにさせるなら喜んで行くさ! しかも、それだけの依頼を受ければ結果、ミリオンダラーの売り上げになる。カスタマーもカンパニーもwin winだ! ま、そのかわり、俺のアパートメントを出発してからトキオタウンに戻ってくるのに21日もかかっちまったがな」 そう言って肩をすくめるキーマンさんは、困ったように笑った。 す……すごい! すごいすごいすごい! キーマンさんはスキルを買われてどんどん依頼が入って、だから12~3か所分の交通費がかかったんだ! すごい……けど、事務見習いの私には難しい……どうすればいいのかな。 単純にスタートからゴールまでを小刻みに計算してけばいいのかな……?
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