第十九章 霊媒師 入籍

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◆◆ 「それでですね、キーマンさんが言ったんです。『俺の精算はいつもこうだ』って。それを聞いて最初はパニックで、だって2か所分の交通費精算をするだけでも緊張するのに、結局13か所分もあったんだもの。社長はいないしどうしようかって焦ってしまいました」 帰りの車の中は、ひっきりなしに話す私と、社長の楽しそうな相づちでラリーとなった。 今日のコトが嬉しくて嬉しくて、それを社長にみんな話してしまいたかったの。 「だけどすぐに落ち着けたのは、キーマンさんが『7日後までに精算出来たらいい』って言ってくれてたからなんです。 信じられないですよね、 精算の為に出社したのに7日も待ってくれるって言うんだもの。本当になんて優しい人だろうって思いました」 「そうか、キーマンらしいな」 「初めてです……座学じゃなくて本物の仕事……ふはは、キーマンさんがいてくれたから出来たの……すごく感謝してます」 「キーマンの精算は複雑だからな。ユリはよく頑張ったよ。ま、俺がいなくても出来ると思ってたけどな」 「ありがとうございます。キーマンさんのおかげです、あっ! もちろん一番感謝してるのは社長ですよ。だって何にもわからない私に一から教えてくださって、……それに、私を拾ってくれたのも社長だもの、」 そうだ、社長が私を拾ってくれなかったら今頃は別の会社にいたかもしれないんだ。 こうして一緒にいる事もなく、好きにもならなかったかもしれない。 そう考えると怖くなる。 この怖さや不安は、私の中で社長の存在がすごく大きくなってしまった証拠だ。 社長が好きで、特別になれなくても、一緒にいるだけで、顔が見れるだけで幸せで、それだけで十分……ん……でもやっぱり本当は特別になりたいな…… だけど好きとは言えないよ。 そんな事を言って、今が壊れちゃったら立ち直れないもの。 ママも爺ちゃんも婆ちゃんもいない。 社長までいなくなったら私は。 やだ……ばかみたい。 想像だけで涙が出てきちゃった、止まれ……お願い止まって、さっきまではしゃいでいたのに、泣いてたらおかしな子かと思われちゃう。
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