第十九章 霊媒師 入籍

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暗い車内。 窓を見る振りをして横を向く。 これなら泣いているのはバレないはず。 今のうちにさりげなくハンカチを出して、見つからないように涙を拭くんだ。 あ……でも鼻水も出てきちゃった。 ズルズルしたらバレちゃう……もういいや。 ハンカチで鼻も拭こう。 その前にハンカチ取りにくいな。 着慣れないスーツ、ハンカチはスカートの右側のポッケで運転席側だ。 座っているから中々取れないよ。 ゴソゴソしてたら社長にわかっちゃう。 ああ……どうしよ……ホントに取れない……ダメだ……もう手でいくしかないかな……いや、でも、涙はともかく鼻水は……それは女の子としてしちゃいけない、 シャッ、シャッ、シャッ、 なんの音? と思ったのと同時、 「ユリ、風邪か? ホラ、鼻かめ。気にすんな。アレだろ? 女は人前で鼻水かみにくいんだろ? 大丈夫だ、人前じゃねぇ。ココには俺しかいねぇからよ」 そう言って、車の中にあったティッシュを大量に差し出してくれた。 「ん、ホラ」 私は女の子だけど、人前で鼻をかむのは大丈夫、気にしない。 そういう理由じゃない、 おかしいの、 笑っちゃう、 ぶっきらぼうだけど社長は優しい。 こんなに優しくされたら、また好きになる。 …… ………… 風邪だと思ってくれてるんだなぁ。 ウソつくみたいでごめんなさい。 あとで違うって言いますから。 今はありがたく使わせてもらおう。 顔を上げると、目の前にはクシャクシャにつかまれたティッシュがあった。 あったけど……それだけじゃない。 そこには大好きな社長の手もあって…… 私は至近距離に映る手から目が離せなかった。 爺ちゃんの手に似てるな、 大きくてゴツゴツで、 指の関節には硬そうなタコがある、 吸い寄せられる、 私は膝に乗せていた手を上げて、 目の前の手を____ 気付いた時にはもう遅かった。 私の両手は、社長のゴツゴツした手を包み込んでいた。
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