第十九章 霊媒師 入籍

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◆◆ 次の日。 社長には8時半ギリギリに来いと言われたのに、T駅に着いたのは8時前だった。 これでもいつもより何本か遅い電車に乗ってきたけど、それでも早かったみたい。 ギリギリに着く電車の時間も調べたんだけど、社長に早く逢いたいなぁなんてコトを考えながら用意してたらこんなことになってしまった……ふははは。 いいやぁ、途中でコンビニに寄って雑誌とかお菓子とか見ていこう。 でもゴハンは……買っちゃダメなの。 社長が「まだ給料出してねぇからな」って、毎日ごちそうしてくれるんだもん……本当に良くしてもらってばっかりだ。 「いいんだよ。社長は給料いっぱいもらってるんだ。気にするくれぇならいっぱい食え!」 なんて笑ってたけど、そういう問題じゃないよ。 初お給料が出たら、そのお金で社長になにかごちそうしたいな。 年下だけど、新入社員だけど、それくらいいいよね。 あと……せっかく作った”無事にカエル”のマスコット。 昨日渡しそびれちゃったなぁ。 今日渡せたらいいなぁ。 駅から歩いて100メートル。 私は慣れないパンプスでゆっくり、そしてなるべくはじっこを歩く。 朝の通勤時間帯、まわりのみんなは歩くのが早い。 かかとに靴擦れの出来ている私は、傷テープは貼っているけど痛くて早く歩けないんだ。 モタモタしてたら、ぶつかっちゃう。 一度男の人にぶつかって、大きく舌打ちをされた時はすごく怖かった。 だからなるべく、人のジャマにならないように気を付けている。 会社までの短い道のりを半分過ぎた所にコンビニがあって、社長も岡村さんも出社する日は寄る事が多いと言っていた。 ふはは、私も寄っちゃうぞー。 コンビニは物が高いから、普段あんまり行かないけど今日は特別。 時間を潰さないといけないしね。 「え……?」 あと少しでコンビニに着く、という所で私は足を……とめた。 かかとが痛くてとか、そんなんじゃない。 もっと別の理由で、私は目の前のあり得ないモノに足がすくんで動けないでいた。 なんで……? なんで誰も何も言わないの……? どうして騒がないの……? ああ……だけど……そうか、そういう事か……これじゃあ誰も騒ぐはずがない。 立ち止まる私の横を、見知らぬ人達が急ぎ足で駅に向かう。 人の流れが出来ているのに、それをジャマする私は、二人、三人とぶつかって、それぞれ大きく舌打ちをされた……けど。 今はその舌打ちが怖いとも思わない。 だって……もっと怖いモノが……目の前にいるんだもの。 あ……ああ……待って、今の言い方はダメ。 ごめんなさい、”モノ”じゃない、 あれは……”ヒト”だ。
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