第十九章 霊媒師 入籍

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寄ろうと思ったコンビニの前。 最初からそこにいたんじゃない。 駅から歩いて来た時、目線の先にあのヒトはいなかった。 ジワジワと……そう、地面から、泡が沸き立つように、少しずつ姿を現した。 あれ、なにかあるなとは思ったけど、カラダの一部しか視えなかったし、声も出していなかったから、それが何か分からなくて気にもとめなかった。 だけど今、そこには男のヒトが倒れもがき苦しんでいるのがハッキリ分かる。 50代くらいの方かな……? すごく顔色が悪くて、すごく痩せている。 上着は青っぽいシャツで……どこかで見たようなと思ったらコンビニの制服によく似ていた。 胸に大きな穴が開き、骨ばった両手で押さえながら、……ああ、酷い……その手にも穴がたくさん開いてるよ。 無数の傷口は、なんでか分からないけど蒼くバチバチと光っていた。 薄い髪はまばらに乱れて、転がるたびに顔や首に張り付くの。 苦しそうで見てられない。 救急車、と、一瞬考え、カバンのスマホを取り出そうと思ってやめた。 呼んでも意味がないから。 左胸に開く大きな穴は人の拳くらいで、どうしてこんな事になったのか予想がつかない。 けど、あんな穴が開いていたら生きていられる訳がない。 なのに……あのヒトは叫びながら動いている(・・・・・)。 ____苦しい……! 痛い……! ____誰か助けてくれ……! ____ナオキ助けてくれ……! ____お父さんを助けて……! コンビニの前でそのヒトは、そう繰り返し叫んでいるの。 生きていられるはずがないのに(・・・・・・・・・・・・・・)。 そう……あのヒトの身体には陽炎のような揺らめきが視える。 死んだママにも、爺ちゃんにも、婆ちゃんにもあった、あの揺らめき(・・・・・・)が。 ああ……どうしたらいいんだろう? 私に何が出来るだろう? わからない……でもね、視てしまったのだもの。 このヒトは、もう亡くなっている(・・・・・・・・・)けど。 こんなに苦しんでいる人を放っておく事は出来ない。
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