第十九章 霊媒師 入籍

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「その怪我はどうされたんですか……? 痛いですよね、どうすれば治せるだろう」 菅野さんが悪い幽霊(ひと)じゃないと思ったら、余計にどうにかしてあげたくなった。 だけど病院へは行っても意味がない。 何か方法はないのかな。 『うん……これはね……その……お客さんにやられたの、』 言いにくそうに菅野さんは答えてくれた。 「お客さんに……? それってどういう意味ですか?」 お客さんって……コンビニの? それは生きてる方って事だよね、生きてる方が幽霊に怪我をさせたの? どうやって……? 『私も悪かったんだ。朝のコンビニはねすごく忙しいの。出勤前のお客さんがたくさんいらっしゃる。今朝は三人のシフトのはずだったのに、一人が突発でお休みしてね。三台あるレジのうち直樹ともう一人のアルバイトの子しかいなかった、』 確かに……今見てもレジに立っているのは二人だけだ。 私はそのまま菅野さんの話の続きを聞いた。 『レジが混んで、お客さんの列が長くなると……ついついね。昔のクセで私もレジに立ってしまう。幽霊の私じゃあ何も出来ないのにだ。今朝も、それでレジに立った。「こちらのレジへどーぞー」なんて大きな声を出しながらね。いや、分かってるんだ。そんな事をしたって直樹を助けてやれる訳じゃない。それでも立って、声を出して……だけど誰も来てくれない。そんな時は空しくて辛くて、どうせ誰にも聞こえないんだけど、ヤケになって大声で私のレジに誘導をかけた。「こちらのレジへー」と何度も何度も。…………それがうるさかったのだろうね、』 悲しそうな顔で、時々顔を歪めて、深いため息をついた菅野さん。 ”うるさかったのだろうね” 、誰にも声は聞こえないはずなのに。 聞こえるとしたら、一部の限られた霊力(ちから)を持っている人間だけ。 それって…… 『お客さんの中に私の姿が視えて、声の聞こえる方がいらっしゃったんだ。声を上げている途中、「…………もういい、消す」という女性の声が聞こえたな、と思った時には遅かった。その方はお会計を待つ列の中から、私に向かって指を伸ばし、その指から……蒼い、矢のような物を撃ってきたんだよ。それが心臓に刺さって……あまりの痛さと苦しさに、もう一度死ぬんじゃないかと思う程だった』 蒼い……矢のような物……? 私は聞きながら背中に冷たい汗を流していた。 だって…… ____いきなり霊矢で撃ってきて『顔を見ているだけで腹が立ちます』とか言いやがるんだ、 社長は笑いながらこう話してくれた。 私以外にいらっしゃる女性社員の方の話だ。 幽霊の姿が視える人なんて、そうそう沢山はいない。 視えて、声が聴けて、さらには霊体に攻撃が出来る人なんて……霊媒師でもなければ、そんな人……まさか……まさか…… 『焼けるような痛み、それに血と泡を吐いてもがいていたら、霊体(からだ)が崩れていったんだ。意識は……そこで途切れた。それから少しして、痛みで目を覚ましたんだよ。暗くてジメジメした場所で、それが店の前の地面の下だとわかったのは、なんとか這い出てからだ。助かったのか……って思ったけど、痛みはあるし、それに……太ももから下が無くなってしまった、』 言い終えた菅野さんは、地面にお尻をつけた格好で座り直すと、私に向かって中身のないズボンを揺らしてみせた。 やっぱりだ……足がないんだ。 だから歩く事も出来ない、それでも息子さんの傍に行こうとして……痛みに耐えながら……地面を這って……こんなの……あまりにも酷いよ。   ★菅野店長がコンビニのお客さんに撃たれたシーンがココです。 https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=400&preview=1
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